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競馬施設での人身事故

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英国の競馬施設での人身事故について調査報告されています。
Filby M, Jackson C, Turner M. Only falls and horses: accidents and injuries in racehorse training. Occup Med (Lond). 2012 Jul; 62(5): 343-349.

調査対象となったのは、英国における256箇所の競走馬の牧場または調教施設で、このうち一年間の調査機関中(2008年)に、人身事故が起こったのは49%(126/256施設)で、一つの施設当たり平均5.3回の事故が報告されていました(総事故数:665回)。そして、人身事故の内訳は、騎乗時の事故が53%、非騎乗時の事故が47%で、このうち医者への来院を要したのは71%、治療を要したのは50%に達していました。

人身事故の内容としては、落馬した場合(Fall from horse)が46%と最も多く、次いで、馬に蹴られた場合(Kicked by horse)が14%、馬に接触した場合(Impact with horse)が12%、人馬転した場合(Rolled-on/Fall with horse)が7%、馬に踏まれた場合(Stood on by horse)が5%、馬に引きずられた場合(Pulled by horse)が4%、馬に噛まれた場合(Bitten by horse)が2%、等となっていました。

怪我のタイプとしては、軟部組織の打撲や挫傷(Soft tissue or bruise)が60%と最も多く、次いで、骨折(Fracture)が14%、裂傷(Laceration)が10%、脳震盪(Concussion)が4%、脱臼(Dislocation)が3%、血腫(Hematoma)が1%、等となっており、中には、“溺れかけた”(Near drowing)という事例も二件ありました(水豪での落馬?)。そして、事故後に要した平均休暇日数は、骨折の場合が60日間と最も長く、次いで、脱臼の場合が35日間、打撲や挫傷の場合が4日間、脳震盪の場合が3日間、等となっていましたが、事故件数全体の六割では、事故後に休暇を要していませんでした。

この研究では、牧場または調教施設の規模が大きいほど(人員数や馬頭数が多いほど)、人身事故の発症率(一人当たりの事故数)が高い傾向が認められましたが、この理由については、この論文の考察内では明確には結論付けられていません。しかし、飼養頭数や馬の出入りが少ない小規模施設では、各人員が殆どの馬のことを熟知しているのに対して、大規模な施設では、厩務員や調教助手が見慣れない馬(性格や気質を良く知らない馬)に触れる機会が多くなりがちで、結果的に突発的な馬の行動を予測できず、事故に至った可能性があるのかもしれません。

この研究では、頭部への怪我の発症率が、騎乗時の事故では16%、非騎乗時の事故では20%を占めており、これは、馬に乗っている時だけでなく、馬を取り扱っている時には、常にヘルメットをかぶる事の重要性を、再確認させるデータであると言えるかもしれません。また、一月ごとの事故件数は、三月~七月にかけて徐々に増加していき、事故件数の最多は八月であったことが報告されています。この理由としては、夏休暇期間において、元気の有り余った馬が、競馬場から牧場&調教施設に帰ってくるためである、という考察がなされています。

この研究の調査期間中には、合計で六百回を超える事故が発生していましたが、幸いにも死亡事故は一回も報告されていませんでした。上述のような、ヘルメットの重要性や、事故多発時期を把握することで、全てのホースマンが安全かつ快適に、馬と一緒の生活を送っていく事を願わずにはいられません。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.

関連リンク:
[1] Williams RB, Harkins LS, Hammond CJ, Wood JL. Racehorse injuries, clinical problems and fatalities recorded on British racecourses from flat racing and National Hunt racing during 1996, 1997 and 1998. Equine Vet J. 2001 Sep; 33(5): 478-86.
[2] Dyson PK, Jackson BF, Pfeiffer DU, Price JS. Days lost from training by two- and three-year-old Thoroughbred horses: a survey of seven UK training yards. Equine Vet J. 2008 Nov; 40(7): 650-7.
[3] McCrory P, Turner M, LeMasson B, Bodere C, Allemandou A. An analysis of injuries resulting from professional horse racing in France during 1991-2001: a comparison with injuries resulting from professional horse racing in Great Britain during 1992-2001. Br J Sports Med. 2006 Jul;40(7):614-8.
[4] Yim VW, Yeung JH, Mak PS, Graham CA, Lai PB, Rainer TH. Five year analysis of Jockey Club horse-related injuries presenting to a trauma centre in Hong Kong. Injury. 2007 Jan;38(1):98-103.
[5] Iba K, Wada T, Kawaguchi S, Fujisaki T, Yamashita T, Ishii S. Horse-related injuries in a thoroughbred stabling area in Japan. Arch Orthop Trauma Surg. 2001 Oct;121(9):501-4.

関連記事:
・乗馬での怪我とヘルメット着用の関連性
・馬に関連した頭部骨折の傾向(ドイツ)
・児童における馬に関わる怪我(豪州)
・ホースマンの怪我の発生状況(米国)
・馬が蹴ったときの蹄鉄の有無の差
・馬同士の喧嘩を防ぐには
・野外障害における落馬リスクの解析
・ヘルメットをかぶろう
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