冬場の毛刈りは是か非か?
馬の飼養管理 - 2015年08月09日 (日)

冬場の毛刈りと、体温維持の関係について研究報告されています。
Wallsten HM, Olsson KA, Dahlborn K. Temperature regulation in horses during exercise and recovery in a cool environment. Acta Vet Scand. 2012 Jul 17; 54(1): 42.
この研究では、冬場に毛刈りすることの是非を検討するため、三頭の実験馬を用いて、(1)毛刈りしない状態、(2)毛刈りしないで毛布を着けた状態(運動中には運動用のブランケット、運動後にはフリース馬着)、(3)半身だけ毛刈りした状態、(4)毛刈りした状態、(5)毛刈りして毛布を着けた状態、という五種類の条件下における、冬場の運動前と運動後の体温(直腸温度)と皮膚温、および発汗の度合いについての比較が行われました。
結果としては、全身の毛刈りがされていない状態(条件1~3)においては、運動後の体温上昇と、多量の発汗が認められ、馬体がオーバーヒートしていた事が示されました。一方、毛刈りして毛布を着けていない状態(条件4)においては、運動後の皮膚温が他の条件下よりも有意に低く、熱保持がうまく出来ていなかった事が示唆されました。このため、冬場の運動中および運動後においては、毛刈りをして毛布を装着することで(条件5)、最も効果的な体温維持および熱保持につながる、という考察がなされています。
一般的に、冬毛が伸びてくる冬季の馬に対しては、自然な状態の体毛を維持したほうが、馬の健康には良いという意見がある反面、汗をかいた時のグルーミングが難しいので、体毛を刈ってブランケットや馬着によって保温を施すほうが良いという考え方もあります。今回の実験では、少なくとも運動中や運動後の体温維持の観点から言えば、「毛刈り+毛布の使用」という状態(条件5)が最も優れていると結論付けられており、また、毛刈りしていない馬では、発汗の多さから、手入れに手間が掛かることを再確認するデータも示されました。
この研究は、北欧のスウェーデンからの報告ですので、マイナス2度~9度という非常に寒い環境下での屋外運動が実施されていましたが、例え毛刈りしてブランケット無しの状態で運動した馬においても(条件4)、運動中の体温維持は充分になされており(運動前37.6度→運動後37.8度)、やはり馬は寒さに強い生き物であることを改めて実感させられました。一方で、運動以外の時間帯の体温や皮膚温は測定されておらず、「毛刈りしないほうが馬体が冷えにくく、飲水量も減らないので、疝痛になりにくい」という仮説を検証するには、更なる実験を要すると考えられました。
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関連リンク:
Wallsten et al. Acta Vet Scand. 2012; 54(1): 42. (Online PDF)
Morgan K, Funkquist P, Nyman G. The effect of coat clipping on thermoregulation during intense exercise in trotters. Equine Vet J Suppl. 2002 Sep;(34):564-7.