育成期サラブレッドの胃潰瘍
話題 - 2015年08月09日 (日)

日本の育成期サラブレッドに対するオメプラゾールの効果が報告されています。
この研究では、騎乗開始から三ヵ月前後の育成期のサラブレッド(平均21ヶ月齢)のうち、健常な62頭を、オメプラゾール投与郡と、偽薬投与郡に分けて、投与開始から四週間後の胃内視鏡検査によって、胃潰瘍の発症率を比較したところ、オメプラゾール投与郡では4%(1/28頭)に留まったのに対して、偽薬投与郡では39%(12/31頭)に及んでいました。このため、調教中の競走馬に対しては、オメプラゾール投与によって胃潰瘍が予防できるという、過去の文献の知見を裏付けるデータが示された、と結論付けられています。もう一つ興味深いのは、胃潰瘍の有病率(Prevalence)で、他の文献では、八割近い競走期のサラブレッドが胃潰瘍を持っていた(100/130頭)という報告されているのに対して(Andrews et al. EVJ Suppl. 1999;29:81)、今回の研究では、その有病率は三割以下(23/85頭)に留まりました。この理由としては、騎乗され始めて間もない育成期のサラブレッドと、年間を通して騎乗されている競走期のサラブレッドにおける、調教期間の長さや運動強度の相違が、胃潰瘍の発症および重度に関与していると推測されています。
一方、オメプラゾールによる胃潰瘍の予防効果を見ても、過去の文献における胃潰瘍の発症率(Incidence)は、対照郡(90%)に比べて投与郡(19%)のほうが五分の一程度で(McClure et al. JAVMA. 2005;226:1681)、また、胃潰瘍の再発率(Recurrence rate)は、対照郡(84%)に比べて投与郡(21%)のほうが四分の一程度となっていました(McClure et al. JAVMA. 2005;226:1685)。一方、今回の研究における胃潰瘍の発症率は、対照郡(39%)に比べて投与郡(4%)のほうが十分の一程度と、顕著に高い予防効果を示していました。この理由としては、育成期サラブレッドのほうが元々の胃潰瘍の重篤度(Severity)が低いので、薬剤が奏功しやすかった事が上げられています。また、この論文の考察内では触れられていませんが、今回の研究では、一回目の内視鏡検査で胃潰瘍を起こしていなかった馬を抽出して、オメプラゾールの投与試験を行っているため、初診時に既に胃潰瘍を起こしていた馬に比べて、胃潰瘍を起こしにくい遺伝性素因(Genetic predisposition)を持っていた可能性も否定できないのではないでしょうか。
日本の競馬社会においても、一般的に市販することが可能になったオメプラゾールによって、胃潰瘍をわずらう馬が一頭でも減ることを願って止みません。
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関連リンク:
Endo Y, Tsuchiya T, Sato F, Murase H, Omura T, Korosue K, Nambo Y, Ishimaru M, Wakui Y. Efficacy of omeprazole paste in the prevention of gastric ulcers in 2 years old thoroughbreds. J Vet Med Sci. 2012; 74(8): 1079-1081.
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