馬獣医師によるレース前検査
未分類 - 2015年08月09日 (日)

馬獣医師による競走馬のレース前検査の有用性が論議されています。
ケンタッキー州競馬委員会(Kentucky Horse Racing Commission)の馬獣医理事(Equine Medical Director)であるメリー・スコレイ獣医師は、10月16日に開催された「競走馬の福祉と安全に関するサミット」において、レース前獣医検査(Pre-race veterinary examination)の有用性についての講演を行いました。そして、レース前の馬を獣医師が監査(Inspection)して、出走するべきか否かの見解を調教師と協議することで、馬の安全を向上できると結論付けています。また、レース前検査で獣医師が特に注意するケースとしては、通常よりも高年齢になってから競走デビューをする馬、複数回の抗炎症剤投与が行われていた馬、60日以上にわたる休養期間(Layoff)の後に出走する馬、などが上げられています。
スコレイ獣医師の調査では、2000~2010年にかけて、ケンタッキー州の二つの競馬場で、レース前獣医検査を受けた約24万頭の競走馬のうち、獣医師の判断に基づいて出走取り消しになったのは407頭で、このうち88頭(22%)は再出走を果たしていませんでした。一方、無作為に抽出した対照郡の競走馬では、再出走しなかった馬の割合は3%未満にとどまりました。また、出走取り消しとなった407頭が、次回の出走までに要した平均休養期間は110日で、対照郡における平均休養期間(39日)よりも顕著に長かった事が報告されています。これらのデータを踏まえると、レース前に獣医師の診断を受けることで、出走に適していない馬をスクリーニングできた可能性がある、と考察されています。
個人的意見としては、レース出走するのに相応しい健康状態であるか否かの判断は、その馬を常に観察している調教師の目が一番確かであり、獣医師がレース前の馬を視診や触診するだけで、怪我をする危険性の高い馬を見つけ出すのは難しいと考えられます。また、それぞれの馬の運動記録を統計解析して、過去半年間の蓄積走行距離、過去一年間の運動期間と休養期間のバランス、過去数レースの走行タイムの推移などのデータに基づいて、筋肉、骨、腱などの組織への、重篤な疲労蓄積を起こしていそうな馬を割り出す、という手法も有効なのかもしれません。さらに、レース後のサーモグラフィ検査による異常発熱箇所の探知、血液検査を介した運動器疾患に対するバイオマーカーの測定なども、競走馬の安全向上のために更なる検討を試みる価値のある分野なのかもしれません。
調教師や獣医師に限らず、競馬に携わる全てのホースマンが、「まず馬ありき」という馬の福祉の原点に立ち返り、競馬産業への利益だけではなく、馬の利益を最優先に考えながら、競走馬の安全性の発展のために、更なる努力を続けていかなければならないという事を、改めて思い出さされた気がしました。
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関連リンク:
Frank Angst. Vet Inspections Important Line of Defense. Blood-Horse News, October 16th, 2012.