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馬の病気:浸潤性腸疾患

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浸潤性腸疾患(Infiltrative bowel disease)について。

浸潤性腸疾患は、腸管粘膜および粘膜下組織における、好酸球(Eosinophils)、リンパ球(Lymphocytes)、大食細胞(Macrophage)、形質細胞(Plasma cells)、好塩基球(Basophils)などの浸潤に起因して、蛋白漏出性腸症(Protein-losing enteropathy)や栄養吸収不全(Nutrients malabsorption)を起こす疾患郡を指します。病因が特定されない場合も多いことから、慢性特発性炎症性腸疾患(Chronic inflammatory bowel disease)と呼ばれることもあり、浸潤する細胞の種類や腸管に病態によって、肉芽腫性腸炎(Granulomatous enteritis: GE)、リンパ性形質細胞性腸炎(Lymphocytic-plasmacytic enterocolitis: LPE)、全身多発性上皮系組織親和性好酸球症(Multisystemic eosinophilic epitheliotropic disease: MEED)、特発性限局性好酸球性腸炎(Idiopathic focal eosinophilic enteritis: IFEE)などの病態が含まれます。

肉芽腫性腸炎は、二~三歳の若齢馬に多く見られ、スタンダードブレッド種に好発するという知見もあります。肉芽腫性腸炎の病因としては、寄生虫(Parasitism)、アルミ中毒(Aluminum toxicosis)、マイコバクテリウム属菌(Mycobacterium avium subsp paratuberculosis)の感染などが挙げられており、食欲不振(Anorexia)と体重減少(Weight loss)の症状が見られます。また、血液検査では低蛋白血症(Hypoproteinemia)、低アルブミン血症(Hypoalbuminemia)、GGTの濃度上昇などが認められ、顕著な貧血(Anemia)が見られる所見で、他の浸潤性腸疾患との鑑別が可能な場合もあります。ブドウ糖やキシロースの吸収試験(Glucose/Xylose absorption test)では、血糖値上昇の遅延が確認される症例もあり、また、病変が消化管の広範囲に及ぶことから、直腸生検(Rectal biopsy)による診断も有効であることが示されています。肉芽腫性腸炎の治療では、デキサメサゾン投与や、羅患部腸管の外科的切除(限局性の症例のみ)による治療も試みられていますが、予後不良(Poor prognosis)の場合が大多数であることが報告されています。

リンパ性形質細胞性腸炎は、粘膜固有層(Lamina propria)におけるリンパ球と形質細胞の浸潤を特徴とし、体重減少および食欲不振(時に好食欲)を呈しますが、疝痛(Colic)や下痢(Diarrhea)の症状はあまり見られません。ブドウ糖やキシロースの吸収試験では、血糖値上昇の遅延が確認されますが、血液検査による低アルブミン血症や貧血の所見は殆ど認められません。直腸粘膜におけるリンパ球および形質細胞の浸潤は、寄生虫感染などにおいても観察されることから、リンパ性形質細胞性腸炎における直腸生検の有用性はあまり高くありません(極めて重度の病態を除いて)。リンパ性形質細胞性腸炎の治療では、デキサメサゾン投与が試みられますが、予後は一般に不良です。

全身多発性上皮系組織親和性好酸球症は、二~四歳の若齢馬に多く見られ、サラブレッド種とスタンダードブレッド種に好発するという知見もあります。全身多発性上皮系組織親和性好酸球症の病因としては、腸管内の寄生虫または細菌への過敏症反応(Hypersensitivity reaction)が挙げられており、体重減少の症状に加えて、下痢や滲出性皮膚炎(Exudative dermatitis)を呈することを特徴とします。血液検査では、低アルブミン血症やGGTの濃度上昇が認められますが、貧血や好酸球増加症(Hypereosinophilia)はあまり顕著ではありません。全身多発性上皮系組織親和性好酸球症においては、小腸の他にも大腸、腸間膜リンパ節(Mesenteric lymph node)、肝臓(Liver)、膵臓(Pancreases)、皮膚など、広範囲に好酸球浸潤(Eosinophilic infiltration)を呈することから、直腸生検による診断も有効であることが示唆されています。この際には、直腸粘膜の好酸球浸潤は健常馬においても見られることを考慮して、好酸球性肉芽腫(Eosinophilic granulomas)や脈管炎(Vasculitis)の併発を診断指針とすることが推奨されています。全身多発性上皮系組織親和性好酸球症の羅患馬は、内科的治療に不応性(Refractory)を示すことが一般的ですが、長期間にわたるコルチコステロイド、抗生物質(Antibiotics)、駆虫剤(Anthelmintics)などの投与による治癒例も報告されています。

特発性限局性好酸球性腸炎は、腸管の寄生虫感染に起因すると考えられ、全身多発性上皮系組織親和性好酸球症と異なり、好酸球浸潤が小腸および大腸に限局的に発生します。特発性限局性好酸球性腸炎の羅患馬においては、左腹側大結腸便秘(Left ventral colon impaction)による回帰性疝痛(Recurrent colic)を主な症状とし、体重減少や食欲不振は顕著には認められません。他の浸潤性腸疾患と異なり、低蛋白血症、低アルブミン血症、貧血などの血液検査所見は殆ど認められず、直腸生検の有用性もあまり高くありません。開腹術(Celiotomy)に際しては、特徴的所見(Pathognomic finding)である壁在性周回帯(Circumferential mural band)の形成を確認することで推定診断が下されます。他の浸潤性腸疾患とは異なり、羅患部腸管の切除&吻合術(Resection and anastomosis of affected intestines)によって良好な予後が期待できることが報告されており、また、壁在性周回帯の再発を防ぐため、コルチコステロイドおよび駆虫剤の投与も併行して実施されます。

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