馬の病気:細菌性心内膜炎
馬の循環器病 - 2015年08月11日 (火)

細菌性心内膜炎(Bacterial endocarditis)について。
心内膜(Endocardium)または弁(Heart valve)への細菌侵襲によって循環器症状を呈する疾患で、幼馬または免疫抑制性(Immunosuppressed)の個体に多く発症が見られます(平均発症齢は2.1歳)。原因菌としては、Streptococcus spp、Actinobacillus equuli、Pasteurella spp等が最も頻繁に分離されています。病因としては、菌血症(Bacteremia)から心内膜へと直接感染する経路が一般的ですが、先天性循環器病(Congenital cardiovascular disease)に起因する噴射血流によって、心内膜が損傷することも発症素因として挙げられています。弁への感染が起きた症例では、大動脈弁(Aortic valve)および僧帽弁(Mitral valve)が羅患することが多い事が報告されています。多くの症例において、細菌性心内膜炎の病態悪化に伴って、弁損傷(Valvular injury)から逆流(Regurgitation)、腱索断裂(Chordae tendineae rupture)、二次性巨心症(Secondary cardiomegaly)、心筋炎(Myocarditis)、冠状動脈塞栓(Coronary artery embolism)に続発する心筋梗塞(Myocardial infarction)などの合併症を引き起こします。
細菌性心内膜炎の臨床症状としては、間欠性発熱(Intermittent fever)、体重減少(Weight loss)、抑鬱(Depression)、食欲不振(Anorexia)、嗜眠(Lethargy)、間欠性跛行(Intermittent lameness)などが見られ、全身性感染の度合いによっては、関節炎(Arthritis)、骨髄炎(Osteomyelitis)、脈管炎(Vasculitis)、腎炎(Nephritis)を呈する事もあります。
細菌性心内膜炎の診断では、聴診において、大動脈弁または僧帽弁閉鎖不全(Aortic/Mitral valve insufficiency)に起因する心雑音(Cardiac murmur)が聴取され、心房細動(Atrial fibrillation)や心室頻拍症(Ventricular tachycardia)を呈する場合もあります。血液検査では、貧血(Anemia)、高蛋白血症(Hyperproteinemia)、高フィブリノーゲン血症(Hyperfibrinogenemia)、白血球増加症(Leukocytosis)などを示します。血液培養による原因細菌の分離は時に困難ですが、同一日の異なる時間帯に採取した複数の血液検体を用いることで、より高感度な細菌培養(Bacterial culture)が可能であることが示唆されています。心エコー検査(Echocardiography)では、肥厚性高エコー性(Thickened and hyperechoic)の疣贅性病巣(Vegetative lesion)が、弁尖(Valve leaflet)または心内膜面(Endocardial surface)に確認されます。疣贅は通常、弁に癒着(Adhesion)しているため弁の動きに合わせて動揺し、また、断裂した腱索端や弁尖の裂離(Valve leaflet avulsion)が観察される症例もあります。カラードップラー検査を用いて、逆流の重篤度を定量する手法も、予後判定のために有用です。
細菌性心内膜炎の治療では、全身性の抗生物質療法(Systemic antimicrobial therapy)が行われ、血液検体を用いての感受性試験(Susceptibility test)に基づいて、使用薬剤を選択することが推奨されていますが、検査結果がでるまでの間は、広域抗生物質(Broad-spectrum antibiotics)の投与が実施されます。初期病態における細菌性心内膜炎の症例では、アスピリンやヘパリン投与によって、血小板癒着(Platelet adhesion)の予防が試みられる事もあります。
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