馬の病気:腸管膜動脈血栓症
馬の循環器病 - 2015年08月11日 (火)

大動脈腸管膜動脈血栓症(Aortic-iliac thrombosis)について。
普通円虫(Strongylus vulgaris)の感染に伴って、腸管膜動脈(Iliac artery)に血栓形成(Thrombus formation)を起こす疾患です。臨床症状としては、安静時には中足動脈拍動の減弱化(Weak metatarsal arterial pulses)や伏在静脈再充満の遅延(Delayed saphenous refill)が見られます。また、運動時には跛行(Lameness)、運動失調(Ataxia)、虚弱(Weakness)、運動不耐性(Exercise intolerance)、プアパフォーマンス等が観察され、羅患肢の冷感が触診される場合もあります。種牡馬では射精機能不全による繁殖障害(Breeding failure)を呈した症例も報告されています。
腸管膜動脈血栓症の診断では、直腸検査(Rectal examination)において、腸間膜動脈拍動の虚弱化または消失(Weak/Absent iliac pulse)、および、動脈瘤性の動脈拡張(Aneurysmal arterial dilation)が触診される事もあります。直腸を介しての超音波検査では、動脈管腔内の低エコー性腫瘤(Hypoechoic mass in arterial lumen)が確認され、ドップラー像による血流妨害(Blood occlusion)の定量的診断も行われます。また、後肢跛行を呈する運動器疾患を慎重に除外診断することも重要です。
腸管膜動脈血栓症の治療としては、駆虫剤(Anthelmintics)、グルコン酸ナトリウム、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与と運動管理(Controlled exercise)が報告されていますが、寄生虫侵襲は一過性であるため、無治療でも症状の改善が見られる可能性が示唆されています。少数の羅患馬における血栓摘出術(Thrombectomy)の実施も報告されていますが、無処置の症例においても、病巣周辺には側副血行路(Collateral circulation)が形成されることから、外科的な血栓除去の必要性については論議(Controversy)があります。
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