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馬の病気:回腸便秘

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回腸便秘(Ileal impaction)について。

馬における小腸便秘(Small intestinal impaction)は、回腸(Ileum)に最も多く見られ、粗繊維(Crude fiber)およびリグニンの含有量の多い、沿岸性バミューダ乾草(Coastal Bermuda hay)の摂食が病因となることが知られており、米国では特に南東州において高い発症率(Incidence)が報告されています。また、歯科疾患(Dental disorders)による咀嚼不全(Poor mastication)、条虫感染(Tapeworm infection)、急激な飼料内容の変化(Sudden change in feeding contents)なども素因となると考えられており、さらに、大動脈腸管膜動脈血栓症(Aortic-iliac thrombosis)に起因する、回腸肥厚(Ileal hypertrophy)に続発して発症する場合もあります。

回腸便秘の症状としては、初期病態では間欠性の軽度~中程度疝痛(Intermittent mild to moderate colic)が見られますが、病状の進行に伴って頻脈(Tachycardia)や頻呼吸(Tachypnea)を呈し、小腸膨満(Small intestinal distension)に起因して、経鼻カテーテルによる胃逆流液(Nasogastric reflux)の排出が見られることもあります。

初期病態における直腸検査(Rectal examination)では、便秘を起こして硬化した回腸が、右背側腹腔域の盲腸基底部(Cecal base)から左腹側腹腔域へと、斜めに走行するように触診されますが、進行病態では膨満した小腸(Distended small intestines)に邪魔されて、便秘部位の触知は困難である場合が殆どです。経鼻カテーテルからの胃逆流液は、回腸から胃までの距離が長いため、胃逆流液の排出までに長時間を要したり、排出量が限られている事が多く、これらの所見によって、十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)や小腸絞扼(Small intestinal strangulation)との鑑別診断(Differential diagnosis)が可能な場合もあります。

回腸便秘の治療では、補液療法(Fluid therapy)によって脱水(Dehydration)の改善を行いながら、副交感神経性溶解薬(Parasympatheticolytic agent)であるブスコパン(Buscopan: Butylscopolammonium bromide)の投与によって、回腸壁の弛緩(Ileal wall relaxation)と便秘部位の再水和(Rehydration)を促します。また、鎮静剤(Sedatives: Xylazine, Detomidine, etc)、鎮痛剤(Analgesics: Butorphanol, etc)、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs: Flunixin meglumine, etc)等の投与に併行して、継続的に胃逆流液を排出させる事によって胃破裂(Gastric rupture)を予防することも重要です。

内科的治療に不応性(Refractory)を示し、鎮静剤や鎮痛剤によっても疝痛症状が制御困難であったり、進行性の小腸膨満(Progressive small intestinal distension)、心血管系機能の悪化(Deteriorating cardiovascular function)などが見られた場合には、正中開腹術(Midline celiotomy)による便秘部位の外科的整復を要します。手術に際しては、回腸壁を穿刺した注射針から、生食とカルボキシメチルセルロースナトリウム(Sodium carboxymethylcellulose)の混合液を注入して、便秘部のマッサージを行い、内容物を盲腸側へと流し出します。重篤な回腸痙攣(Severe ileal spasms)を呈した症例においては、小腸腔内へのリドカインの注入が併用される場合もあります。手動的な整復が困難な症例、または進行病態を呈し、マッサージによる小腸破裂(Small intestinal rupture)および術後腸閉塞(Post-operative ileus)の危険が高いと判断された場合には、空腸切開術(Jejunal enterotomy)を介しての内容物の洗浄および除去が行われます。また、回腸肥厚に続発する病態に対しては、羅患部位の回腸切除(Ileal resection)と空腸盲腸吻合術(Jejunocecostomy)が応用される場合もあります。

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