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馬の病気:尿路感染症

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尿路感染症(Urinary tract infection)について。

馬における尿路感染のうち、膀胱(Urinary bladder)や尿道(Urethra)などの下部尿路の感染症(Lower urinary tract infection)は、膀胱結石症(Bladder calculi)や尿道閉塞(Urinary obstruction)などに起因して発症します。一方、腎臓(Kidney)や尿管(Ureters)などの上部尿路の感染症(Upper urinary tract infection)は、尿路結石症(Urolithiasis)や腎臓結石症(Nephrolithiasis)などに起因して発症します。また、外傷や馬胃虫症(Habronemiasis)に続発する包皮浮腫(Preputial edema)と尿路失調(Urinary incontinence)なども、下部尿路感染症の病因として挙げられています。馬ヘルペス脊髄脳症(Equine herpes myeloencephalopathy)および馬多発神経炎(Polyneuritis equi)によって膀胱麻痺(Bladder paralysis)を起こした症例や、尿道括約筋の緊張低下(Urethral sphincter hypotonia)を起こした牝馬においても、下部尿路感染の合併症を起こすことがあります。

下部尿路感染症の症状としては、排尿障害(Dysuria)、頻尿症(Pollakyuria)、血尿症(Hematuria)などを呈し、膀胱から出血を生じた場合には、排尿中にずっと血尿を示すものの顕著な赤色は排尿終了直後に見られる事が一般的です。上部尿路感染症では、発熱(Fever)や体重減少(Weight loss)などの全身性の感染症状を呈しますが、下部尿路感染症を続発して排尿障害を示す場合もあります。直腸検査(Rectal examination)では、膀胱の肥大化および無緊張化(Enlarged and atonic bladder)、尿管の膨満(Distended ureters)、腎臓の肥大化または縮小化(Enlarged or shrunken kidney)などが触診される場合もあります。

尿路感染症の診断のための尿検査では、排尿の中間期の検体(Midstream sample)もしくは膀胱カテーテルによる採取検体を用いる事が推奨されており、白血球増加(>10 WBC per hi-power-field)や細菌数増加(>1000 CFU per mL)が認められます。血液検査による感染症兆候は、下部尿路感染症よりも上部尿路感染症においてより顕著に認められ、高窒素血症(Azotemia)と尿比重低下(Low urine specific gravity)を呈した症例では、両側性(Bilateral)の上部尿路感染症が示唆されます。超音波検査(Ultrasonography)では、腎臓のサイズや形状の検査が行われ、また、尿道造影法(Urethrograpy)を介したX線検査によって、尿道閉塞や包皮浮腫の診断が下される場合もあります。尿道および膀胱の内視鏡検査(Endoscopy)では、粘膜性状、尿道結石の発見、尿管開口部からの尿流(Urine flow from ureteral orifice)などの評価が行われ、カテーテル挿入による単一尿管からの検体採取を介して、片側性腎盂腎炎(Unilateral pyelonephritis)の診断が試みられる事もあります。また、馬の尿は多量の結晶(Crystals)を含むため、不完全な排尿で膀胱が空っぽにならない状態が続いた場合には、結晶蓄積による砂状尿道結石症(Sabulous urolithiasis)を併発する症例もあります。

尿路感染症に対する全身性抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)では、カテーテルによる尿検体を用いての細菌培養(Bacterial culture)と感受性試験(Susceptibility test)の結果に基づいて使用薬剤を選択することが推奨されますが、尿路は無菌組織ではないため、選択薬物が必ずしも良好な効能を示すわけではないことを考慮する必要があります。一般的に、尿路感染症に対しては、Trimethoprim+Sulfonamide、Penicillin、Ampicillin、Cephalosporinsなどが有効です。GentamicinやAmikacinは腎毒性(Nephrotoxic)を示すため慎重な投与が必要で、TetracyclineとChloramphenicolは多くが肝臓代謝され、尿中排出(Urinary excretion)は少ないことが知られています。また、Enrofloxacinによる良好な治療例も報告されていますが、関節軟骨損傷(Articular cartilage damage)の潜在的副作用(Potential adverse effect)を考慮して幼馬に対しての投与は推奨されていません。

尿路失調に起因する症例においては、副交感神経刺激薬(Parasympathomimetic agent)であるBethanecholの投与によって、排尿筋緊張(Detrusor tone)の改善が試みられる場合もあります。膀胱結石症や砂状尿道結石症などの原発疾患が認められた症例では、結石の外科的除去(Surgical removal)や内視鏡による結晶砂洗浄(Lavage of crystalloid materials)を実施することが必要です。尿道括約筋の緊張低下を呈した牝馬症例においては、Estradiol cypionateおよびBenzoate投与によって、尿路失調の症状改善が期待できることが報告されています。

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