馬の病気:尿細管アシドーシス
馬の泌尿器病 - 2015年08月15日 (土)

尿細管アシドーシス(Renal tubular acidosis)について。
腎臓尿細管の機能異常(Renal tubular dysfunction)に起因して高クロール性代謝性アシドーシス(Hyperchloremic metabolic acidosis)を呈する疾患で、遠位尿細管での水素イオン排出(Distal tubular excretion of hydrogen ion)に異常が起こすタイプ1尿細管アシドーシスと、近位尿細管での重炭酸吸収(Proximal tubular resorption of bicarbonate)に異常を起こすタイプ2尿細管アシドーシスに分類されます。また、タイプ2尿細管アシドーシスは、薬物腎毒性や自己免疫性疾患(Autoimmune disease)による広汎性近位尿細管障害から、ブドウ糖、電解質、尿酸等の吸収異常を起こすファンコニ症候群(Fanconi’s syndrome)に併発して起こる病態もあります。
尿細管アシドーシスの症状としては、顕著な抑鬱(Depression)や食欲不振(Anorexia)を呈し、プアパフォーマンス、体重減少(Weight loss)、腹部疼痛(Abdominal pain)などが見られる場合もあります。血液検査では、重炭酸濃度の減少(<13mEq/L)、静脈血pHの減少(<7.25)、高クロール血症(105~120mEq/L)などの深在性代謝性アシドーシス(Profound metabolic acidosis)の所見を示し、軽度~中程度の高窒素血症(Mild to moderate azotemia)、二酸化炭素分圧減少(Decreased partial pressure of carbon dioxide)、低カリウム血症(Hypokalemia)が見られる場合もあります。尿検査では、色素尿症(Pigmenturia)、糖尿症(Glucosuria)、尿比重低下(Low urine specific gravity)などが認められ、尿pHはタイプ1では中性~アルカリ性、タイプ2では中性~酸性を示すことが知られています。
尿細管アシドーシスの内科療法としては、6~12時間にわたる炭酸水素ナトリウムの経静脈投与(Intravenous administration of NaHCO3)によって、重炭酸欠乏量の約半分(Half of bicarbonate deficits)を置換して、その後は経静脈投与に併行して重曹の経口投与(Oral administration of baking soda)を実施して、残り半分の欠乏量の置換を行う治療指針が推奨されています。この際には、重炭酸排出に併行して生じるカリウム尿症(Kaliuresis)によって低カリウム血症の悪化が見られる症例もあるため、経静脈または経口によるカリウム補給(Potassium supplementation)を実施することが大切です。また、多くの症例において、全身性症状の改善のため、補液療法(Fluid therapy)とブドウ糖補給も併用されます。
馬における尿細管アシドーシスの予後は一般に良好ですが、重曹の経口投与を中断すると代謝性アシドーシスの再発(Recurrence)を起こす症例がある事も報告されています。
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