馬の病気:甲状腺機能低下症
馬の内分泌病 - 2015年08月16日 (日)

甲状腺機能低下症(Hypothyroidism)について。
甲状腺(Thyroid grand)からのサイロキシン(Thyroxin: T4)とトリヨードサイロニン(Tri-iodothyronine: T3)の分泌能の低下を起こす疾患で、病因としては、抗炎症剤による副作用、ヨード摂取不足(Inadequate iodine intake)、給餌内容(過剰なエネルギー・蛋白質・亜鉛・銅: Excessive energy, protein, zinc, copper)、Tall fescue等の牧草飼養馬に見られる真菌毒アルカロイドの摂取などが挙げられています。また、甲状腺の機能は正常で、末梢におけるT4-T3転換の減少(Decreased peripheral conversion of T4 to T3)を起こす低トリヨードサイロニン症候群(Nonthyroidal illness syndrome)の関与も示唆されています。
甲状腺機能低下症の症状としては、肥満症(Obesity)や蹄葉炎(Laminitis)が最も頻繁に見られ、無汗症(Anhidrosis)、横紋筋融解症(Rhabdomyolysis)、不妊症(Infertility)、先天性の甲状腺肥大化(Congenital thyroid enlargement: Goiter appearance)、運動不耐性(Exercise intolerance)などを呈する場合もあります。肥満を起こした馬では、頚頂(Neck crest)、臀部(Rump)、尾根(Tailhead)などに脂肪沈着(Fat deposit)が好発します。また、甲状腺機能低下症が示唆される多くの症例において、インシュリン耐性(Insulin resistance)を併発することが知られており、甲状腺の機能異常との因果関係や治療指針については論議があります。
甲状腺機能低下症の診断としては、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(Thyrotropin-releasing hormone: TRH)もしくは甲状腺刺激ホルモン(Thyroid-stimulating hormone: TSH)の投与後に、T4およびT3の総濃度(Total concentration)または遊離区分濃度(Free fraction concentration)を測定する検査法が用いられ、正常馬では、T3濃度は二時間以内に倍増し、T4濃度は四時間以内に倍増することが報告されています。また、安静時のT4およびT3の遊離区分濃度を診断基準とする手法も試みられています。低トリヨードサイロニン症候群の発症馬では、一般にTRH/TSH刺激試験によって正常範囲内のT4/T3濃度上昇が認められます。
甲状腺機能低下症の治療としては、ヨード不足や過剰な栄養素給餌などの改善を行い、内科療法としては、ヨウ化カゼイン(Iodinated casein)やサイロプロテイン(Thyroprotein)などの投与による甲状腺ホルモン補給療法(Thyroid hormone supplementation therapy)が行われますが、臨床症状の好転には最低でも二週間を要することが報告されているため、血清中のホルモン濃度をモニタリングする事によって、必要な補充給餌量を調整することが推奨されています。また、低トリヨードサイロニン症候群の羅患馬においては、甲状腺ホルモン補給はあまり効能がなく、むしろ視床下部(Hypothalamus)→下垂体(Pituitary gland)→甲状腺の内分泌軸(HPT axis)の機能悪化を起こす危険性も示唆されています。
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