馬の病気:上皮小体機能亢進症
馬の内分泌病 - 2015年08月16日 (日)

上皮小体機能亢進症(Hyperparathyroidism)について。
馬においては低カルシウムおよび高リン酸含有の飼料(CaとPの比が>3:1)に起因する、栄養性二次性上皮小体機能亢進症(Nutritional secondary hyperparathyroidism)が最も頻繁に発症し、フスマ病(Ban disease)、ミラー病(Miller’s disease)、巨頭病(Big head disease)などとも呼ばれます。病因としては、リン酸過剰摂取による消化器でのカルシウム吸収の減少(Reduced intestinal calcium absorption)に起因する、副甲状腺細胞の過形成(Parathyroid cell hyperplasia)と上皮小体ホルモン(Parathyroid hormone: PTH)の過剰分泌が挙げられ、腎臓での活性ビタミンD合成の抑制(Inhibition of renal 1,25(OH)2D synthesis)の関与も示唆されています。馬においてはカルシウム排出(Calcium excretion)における腎臓の役割が大きいため、慢性腎不全(Chronic renal failure)においては一般に高カルシウム血症(Hypercalcemia)を引き起こす事から、他の動物種で見られるような、腎性二次性上皮小体機能亢進症(Renal secondary hyperparathyroidism)の発症は見られません。
栄養性二次性上皮小体機能亢進症の症状としては、初期病態においては間欠性移動性跛行(Intermittent shifting lameness)や強直性歩様(Stiff gait)が見られ、病状の悪化に伴って過剰なPTH分泌による骨吸収増加(Increased bone resorption)が起こり、特に頭骸骨や下顎骨における骨異栄養性繊維症(Osteodystrophia fibrosa)を併発して、対称性顔面骨肥大(Symmetric facial bone enlargement:いわゆるBig head appearance)の外観を示します。重篤な骨吸収を生じた症例では、歯のゆるみ(Teeth loosening)や長骨の自発性骨折(Spontaneous fractures of long bones)を起こす場合もあります。
栄養性二次性上皮小体機能亢進症の診断としては、血液検査では高リン酸血症(Hyperphosphatemia)とPTH濃度の上昇が見られ、カルシウム濃度は正常値またはやや低値(Normocalcemia to mild hypocalcemia)を示します。尿検査では、低カルシウム尿症(Hypocalciuria)と高リン酸尿症(Hyperphosphaturia)が認められます。馬においても稀に見られる一次性上皮小体機能亢進症(Primary hyperparathyroidism)では、高カルシウム血症(Hypercalcemia)と低リン酸血症(Hypophasphatemia)を起こす所見で鑑別診断が下されます。X線検査では、繊維性骨増殖(Fibrous bone proliferation)と骨密度の減少(Decreased bone density)が観察されますが、顕著なレントゲン上の異常所見は、骨密度が30%以上減少した場合にのみ認められる事が知られています。
栄養性二次性上皮小体機能亢進症の治療としては、飼料中のカルシウムとリン酸の比率を分析および補正して、カルシウム炭酸塩(Calcium carbonate)やリン酸水素カルシウム(Dicalcium phosphate)の補給療法(Supplementation therapy)が併用される場合もあります。また、ビタミンDの飼料添加や、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与が試みられる事もあります。病態の完治には通常9~12ヶ月を要しますが、異常骨形成の外観は退行しない症例が多いことが報告されています。馬の副甲状腺はサイズが小さく、解剖学的位置も不規則で、また、一対の副甲状腺は胸腔内に存在する場合もあるため、副甲状腺摘出術(Parathyroidectomy)による上皮小体機能亢進症の治療成功例は報告されていません。
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
- 関連記事
-
-
馬の病気:上皮小体機能亢進症
-
馬の病気:クッシング病
-
馬の病気:無汗症
-
馬の病気:甲状腺機能低下症
-
馬の病気:代謝性症候群
-