馬の病気:陰嚢水腫
馬の生殖器病 - 2015年08月17日 (月)

陰嚢水腫(Hydrocele)について。
精巣鞘膜(Vaginal tunic)の内部に漿液貯留(Serous fluid accumulation)を生じる疾患で、鞘膜内への血液貯留を起こした病態は陰嚢血腫(Hematocele)と呼ばれます。陰嚢水腫は、外傷性の陰嚢浮腫(Traumatic scrotal edema)に起因することが一般的ですが、腹水症(Ascites)、全身浮腫(Anasarca)、局所性のリンパ性浮腫(Local lymphedema)に続発する病態も知られています。
陰嚢水腫の症状としては、陰嚢膨満(Scrotal distension)と熱感が認められ、陰嚢の触診によって精巣の可動性を確認することで、鞘膜内癒着の併発を確かめます。陰嚢水腫の確定診断は超音波検査(Ultrasonography)によって下され、鞘膜内への無反響性液体(Anechoic fluid)の貯留が確認され、高反響性の凝固血液(Hyperecoic clotted blood)が示される陰嚢血腫との鑑別診断が行われます。また、貯留液の無菌的吸引(Aseptic tap)によって細菌感染の有無を確認し、腹水検査(Abdominocentesis)によって腹膜炎(Peritonitis)の診断を下すことも重要です。直腸検査(Rectal examination)では、鼠径ヘルニア(Inguinal hernia)の除外診断を行い、また、内鼠径輪(Internal inguinal ring)の拡大を触知することで、鞘膜内への腹水流入に起因する二次性陰嚢水腫の推定診断が可能な症例もあります。
陰嚢水腫の治療では、陰嚢の冷水療法(Cold hydrotherapy)と貯留液の吸引除去を施し、全身性抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)と非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与も行われます。しかし、保存性療法(Conservative therapy)に不応性(Refractory)を示したり、ドップラー超音波像によって血液循環の阻害が見られた場合には、片側性去勢(Unilateral castration)の実施が推奨されます。また、陰嚢血腫や鞘膜内癒着を呈した症例では、治癒促進のため凝固血液や癒着病巣の外科的除去が推奨されます。腹膜炎に併発する陰嚢水腫では、腹腔洗浄(Abdominal lavage)による原発疾患の治療が行われる場合もあります。
陰嚢水腫の予後は一般的に良好~中程度で、多くの症例において精巣機能は1~2ヶ月で回復するものの、陰嚢膨満の完全な退縮には4~5ヶ月を要する症例もあるため、経時的な精液検査と超音波検査によって、片側性去勢の必要性とタイミングを的確に判断することが重要です。しかし、難治性の陰嚢血腫を起こした症例では、精巣の機能回復は難しく、正常側の精巣が熱性変性(Thermal degeneration)を引き起こす危険を考慮して、速やかに罹患側精巣を外科的切除することが推奨されています。片側性去勢が選択された症例では、健常側精巣の肥大化(Hypertrophy)によって機能増加を呈し、種牡馬としての生殖能力には大きく影響しないことが示されています。
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