馬の病気:精巣変性
馬の生殖器病 - 2015年08月18日 (火)

精巣変性(Testicular degeneration)について。
精巣が後天性に退行性変化(Acquired degenerative change)を起こす病態を指し、精巣萎縮(Testicular atrophy)に伴う生殖機能の減退を引き起こす疾患です。精巣変性の病因としては、高温の気候(Increased ambient temprerature)や全身性感染症(Systemic infection)に起因する持続性の高体温(Prolonged hyperthermia)、感染性および外傷性の精巣炎(Infectious/Traumatic orchitis)、浮腫に起因する陰嚢遮蔽(Scrotal insulation)、鼠径ヘルニア(Inguinal hernia)などが挙げられており、また、精巣上体閉塞(Epididymis obstruction)や精索捻転(Spermatic cord torsion)に続発して起こる病態も知られています。
精巣変性の症状としては、陰嚢サイズの縮小が見られることが一般的ですが、有意な生殖機能減退にも関わらず、外見上の陰嚢萎縮は顕著ではない症例も見られます。精液検査(Semen examination)では、精子濃度の減少(Decreased spermatozoa concentration)、形態異常を示す精子数の増加(Increased spermatozoa with morphologic defects)、未成熟な胚芽細胞の増加(Increased premature germ cells)などが認められます。しかし、顕著な陰嚢萎縮を伴わない精液検査の異常所見では、精巣変性と精巣低形成(Testicular hypoplasia)の鑑別診断は困難な症例が殆どです。
精巣変性の確定診断は、精巣の生検(Testicular biopsy)を介しての病理組織検査によって下され、精細管内腔(Seminiferous tubule lumen)における内皮構造の消失(Loss of epithelium architecture)や一倍体胚芽細胞相の欠損(Absence of haploid germ cell stage)などが認められ、重度病態では基底膜縁に僅かに残存したセルトリ細胞のみが観察されます。また、血清中のテストステロン濃度の減少、黄体形成ホルモン(Luteinizing hormone: LH)の濃度の減少(初期病態)、卵胞刺激ホルモン(Follicle-stimulating hormone: FSH)の濃度の上昇(慢性病態)、エストラディオール濃度の減少(慢性病態)などが診断指標として用いられる場合もあります。
精巣変性の治療では、一次性病因の改善を第一指針とし、涼しい飼養環境への変更、全身性感染症の治療などが行われますが、臨床症状を発現した精巣変性は不可逆的変化(Irreversible change)に至っている場合が多いと考えられています。また、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gonadotropin-releasing hormone: GnRH)の投与によるゴナドトロピン置換療法(Gonadotropin replacement therapy)によって、精巣組織の治癒を促す手法が試みられる場合もあります。精巣変性は予後不良を呈する症例が多いことが報告されていますが、退行性変化が可逆性であった患馬では、治療開始から2~5ヶ月で精子生成能の回復が見られることが示唆されています。
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