馬の病気:精巣捻転
馬の生殖器病 - 2015年08月19日 (水)

精巣捻転(Spermatic cord torsion)について。
馬の精巣は陰嚢(Scrotum)の内部で水平方向に位置(Horizontal position)しているため、他の動物種よりも精巣捻転を起こし易いことが知られています。精巣捻転の病因および素因としては、精巣上体尾側靭帯(Caudal ligament of epididymis)(=陰嚢靭帯:Scrotal ligament)および精巣間膜(Mesorchium)の伸長化(Elongation)が挙げられています。
精巣捻転の臨床症状は、捻転度合いによって異なり、通常は180°以下の回転では不症候性(Asymptomatic)で、一過性の病態(Transient condition)である場合が殆どです。しかし、精巣の捻転が180°以上に及んで、血液循環異常(Vascular compromise)を引き起こした症例では、急性発現性(Acute onset)の腹痛症状(Abdominal pain)、頻脈(Tachycardia)、頻呼吸(Tachypnea)、片側性陰嚢腫脹(Unilateral scrotal swelling)、陰嚢の高温化(Increased testicular temperature)などを呈し、病状が長期化した場合には精巣変性(Testicular degeneration)に至る場合もあります。
精巣捻転の診断は、視診と触診で下されることが一般的で、正常時には精巣の頭背側(Craniodorsal to testis)に位置している精巣上体頭(Head of epididymis)が、尾腹側(Caudoventral)へと変位している所見が認められます。しかし、360°および720°回転を起こした精巣捻転では、精巣上体の位置は正常に近い場合もありえます。このため、精巣捻転を確定診断するには、類似疾患である鼠径ヘルニア(Inguinal hernia)を直腸検査(Rectal examination)によって除外診断したり、陰嚢の超音波検査(Ultrasonography)によって精索走行の捻れを確認する手法が有効です。
精巣捻転の治療では、手動による整復(Manual correction)が可能な症例もありますが、患馬の気質によっては術者の危険を伴う場合もあり、また、捻転の再発(Recurrence)を生じる可能性が高いことが知られています(陰嚢靭帯は伸長したままであるため)。精巣捻転の外科的治療では、全身麻酔下(Under general anesthesia)で精巣の捻れを整復した後、精巣の頭側および尾側極部(Cranial and caudal poles of testis)において、白膜(Tunica albuginea)と肉様組織(Dartos tissue)のあいだに通した非吸収性縫合糸(Nonabsorbable suture)を介して、精巣固定術(Orchiopexy)を施すことで精巣が再び捻転するのを予防する術式が有効です。
精巣捻転の整復後に出血(Hemorrhage)や壊死(Necrosis)を起こした症例では、免疫反応に起因して精子に対する抗体の生成(Production of antibodies to spermatozoa)が生じ、対側精巣の損傷を続発する危険が高いことが報告されています。このため、術後の触診や超音波検査によって、罹患側精巣の生存性低下(Diminished testicular viability)が疑われた場合には、片側性去勢(Unilateral castration)を行うことが推奨されています。この場合には、正常側の精巣が術後に肥大化(Hypertrophy)および機能増加を示すことが一般的で、種牡馬としての生殖能力自体は大きく低下しないことが示唆されています。
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