馬の病気:精巣上体炎
馬の生殖器病 - 2015年08月19日 (水)

精巣上体炎(Epididymitis)について。
精巣上体(Epididymis)の炎症は、精巣炎(Orchitis)や副生殖腺の感染(Accessory sex gland infection)から二次性に発症することが一般的ですが、蹴傷や転倒などの外傷性に起こる場合もあります。細菌感染の経路は精巣炎に類似し、血行性(Hematogenous)や尿生殖器関門(Genitourinary passage)を介しての上行性細菌侵入(Ascending bacterial invasion)に起因すると考えられ、精巣上体尾(Tail of epididymis)の罹患が最も多いことが知られています。
精巣上体炎の症状としては、軽度の腹痛症状(Mild abdominal discomfort)を示しますが、精巣炎に比べて陰嚢膨満(Scrotal distension)や熱感(Heat)はそれほど顕著ではありません。このため、精巣上体炎と精巣炎を鑑別するためには、精巣上体が位置している陰嚢尾背側部(Craniodorsal aspect of scrotum)における僅かな腫脹(Swelling)、肥大(Enlargement)、圧痛(Pain on palpation)等の兆候を慎重に確認することが重要です。また、病状の悪化に伴って、全身性の発熱(Pyrexia)、抑鬱(Depression)、背中を丸める仕草(Arched back posture)などが認められる事もあります。
精巣上体炎の診断では、視診と触診によって推定診断(Presumptive diagnosis)が下されることが一般的ですが、陰嚢の超音波検査(Ultrasonography)によって精巣上体の肥大化、精管拡張(Dilated ducts)、精巣上体尾の周囲における液体貯留(Fluid accumulation)、精巣上体内部の膿性嚢胞形成(Purulent cyst formation)などを確かめる手法も有効です。また、精液検査(Sperm examination)では、炎症性細胞(Inflammatory cells)の混入、精子濃度の減少(Decreased spermatozoa concentration)、形態異常を示す精子数の増加(Increased spermatozoa with morphologic defects)などが示され、精液検体を用いての細菌培養(Bacterial culture)と抗生物質感受性試験(Antibiotic susceptibility test)が実施されます。
精巣上体炎の治療は、精巣炎や副生殖腺感染の治療と併行して実施されることが一般的で、感受性試験に基づいての全身性抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)による細菌感染の改善を試み、陰嚢の冷却療法(Cryotherapy)と非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与による炎症反応の制御を施します。この際には、感染再発(Infection relapse)が起こる危険を考慮して、精液内に炎症性細胞が見られなくなった後も、1~2週間は内科療法を継続することが推奨されています。
慢性経過を示した精巣上体炎では、精管閉塞と肉芽腫形成(Granuloma formation)を続発して、精巣萎縮(Testicular atrophy)から精巣変性(Testicular degeneration)に至る症例も見られます。この場合には、反対側の精巣に感染が浸潤するのを防ぐため、片側性去勢(Unilateral castration)が選択される場合もあります。精巣が一つになった種牡馬においても、通常は正常側の精巣が機能増加を示すことから、比較的良好な生殖能力を維持できることが示されています。
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.