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馬の病気:前恥骨靭帯断裂

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前恥骨靭帯断裂(Prepubic tendon rupture)について。

前恥骨靭帯(Prepubic tendon)の断裂は、出産直前の牝馬に発症し、腹横筋(Transverse abdomis)、腹斜筋(Oblique abdomis)、腹直筋(Rectus abdomis)などの損傷を併発することが一般的です。前恥骨靭帯断裂の病因としては、転倒などによる腹底部緊張の上昇や、胎児水腫(Hydrops fetalis)による子宮重量の増加などが挙げられており、重種馬や高齢牝馬において好発する可能性が示唆されています。

前恥骨靭帯断裂の症状としては、腹壁底部の顕著な肥大化(Marked ventral abdominal wall enlargement)、重度の疝痛症状(Severe colic sign)、頻脈(Tachycardia)が認められます。しかし、靭帯および筋郡の部分断裂(Partial rupture)のみの症例では、広範囲にわたる腹部浮腫(Extensive ventral edema)のみを呈する場合もあるため、腹壁の超音波検査(Ultrasonography)によって、前恥骨靭帯や腹底部筋郡の不連続性を確認することが重要です。直腸検査(Rectal examination)による靭帯および筋肉の断裂部の触知は、妊娠後期における子宮容積の拡大のため、通常は困難であることが示されています。

前恥骨靭帯断裂の罹患馬では、進行性の腹底部支持組織の損傷(Progressive damage to abdominal support tissues)を引き起こす危険が高いため、動物愛護の観点からも、妊娠中絶(Pregnancy termination)を行うことが推奨されています。しかし、妊娠の継続が選択された場合には、腹帯装着(Belly band placement)や吊起帯支持(Sling support)による腹底部のサポートが施され、補助出産(Parturition assistance)や帝王切開(cesarean section)による分娩を要することが一般的です。

前恥骨靭帯断裂の外科的治療としては、罹患馬の妊娠中絶もしくは出産後に、メッシュヘルニア縫合術(Mesh herniorrhaphy)による靭帯や筋郡の断裂部位の整復が試みられる場合もあります。しかし、完全断裂の場合には裂傷端同士の引き戻しは難しく、また、整復後にも妊娠に耐えうる腹壁強度を取り戻すことは困難であると考えられるため、その後の繁殖飼養は推奨されていません。このため、患馬が血統の良い牝馬である場合には、胚移植(Embryo transfer)を介して子馬の繁殖が行われることが一般的です。

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