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馬の病気:会陰裂傷

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会陰裂傷(Perineal laceration)について。

分娩時に起こる会陰裂傷は初産の牝馬(Primiparous mare)に好発し、膣前庭括約筋の突出部(Vestibulovaginal sphincter prominence)に胎児の前肢蹄が引っ掛かることが病因であると考えられています。また、興奮し易い牝馬の気質(Excitable temperament of mare)、胎児の姿勢異常(Fetal malposition)、サイズの大きい胎児、などが発症素因(Predisposing factors)として挙げられています。

会陰裂傷はその重篤度によって、下記の四種類に分類されます。
(1)第一度会陰裂傷(First-degree perineal laceration):膣前庭粘膜(Vestibular mucosa)と外陰交連背側部の皮膚(Skin of dorsal commissure of vulva)のみの損傷を生じた状態。
(2)第二度会陰裂傷(Second-degree perineal laceration):膣前庭粘膜および粘膜下組織(Submucosal tissue)に加えて外陰収縮筋(Constrictor vulvae muscle)を含む会陰体部筋層(Muscle layer of perineal body)の損傷を生じた状態。
(3)第三度会陰裂傷(Third-degree perineal laceration):直腸膣前庭棚(Rectovestibular shelf)の完全破損(Complete disruption)によって膣と直腸の連絡孔を生じた状態。
(4)直腸膣瘻(Rectovaginal fistula):外陰部と肛門括約筋(Anal sphincter)の連続性は保たれたまま膣と直腸の連絡孔を生じた状態。

第一度会陰裂傷の罹患馬では、通常は外科的治療を要しませんが、裂傷部の長さによっては陰門形成術(Vulvoplasty:いわゆるCaslick procedure)が施される場合もあります。第二度会陰裂傷の罹患馬では、会陰陥没(Sunken perineum)を呈して気膣症(Pneumovagina)を続発する危険が高いため、会陰体部の縫合整復と陰門形成術が行われることが一般的です。

第三度会陰裂傷および直腸膣瘻の罹患馬では、直腸からの糞便流入によって慢性的な膣前庭汚染(Chronic vestibular contamination)を起こすことから、損傷部の外科的整復が必要となります。しかし、発症直後には裂傷端が重篤な浮腫を起こして、堅固な縫合閉鎖は難しいため、3~4週間後に外科手術を実施することが推奨されています。この期間中には、糞便の手動除去(Manual fecal evacuation)と裂傷部の洗浄を毎日実施することに加えて、糞便の軟化と水分量の減少によって膣汚染を最小限にするため、フスマや青草の給餌や、胃カテーテルによるミネラルオイルの投与などの食餌管理(Dietary management)が行われます。

第三度会陰裂傷の外科的治療では、直腸膣前庭棚と会陰体部の縫合閉鎖を二回の手術に分けて行う二段階整復法(Two-stage repair)と、この二つの組織の縫合閉鎖を一回の手術で行う一段階整復法(Single-stage repair)の二つの術式が用いられています。二段階整復法では、まず膣と直腸の連絡孔の辺縁を切開して、膣前庭側組織の縫合閉鎖によって膣の粘膜、粘膜下組織、筋層の連続性を達成としてから、3~4週間後に会陰体部の上皮組織を切除(Epithelium removal)してから直腸側組織の縫合閉鎖を行うことで、直腸の粘膜、粘膜下組織、筋層の連続性を達成します。

一方、一段階整復法では、膣と直腸の連絡孔の辺縁を切開してから、六ヶ所縫合パターン(Six-bite suture pattern)(Left vestibular flap → Left rectal submucosa → Right rectal submucosa → Right vestibular flap → Right vestibular shelf → Left vestibular flap)による直腸膣前庭棚と会陰体部の同時閉鎖を行う手法や(Goetze method)、三層縫合閉鎖(Three-layer closure)によって膣前庭粘膜、直腸粘膜、会陰体部を別々に整復する手法(Aanes method)などが用いられています。一段階整復法に比べて二段階整復法の方が手間と費用を要しますが、排便障害(Obstipation)を引き起こす危険が少ないことが示唆されています。

直腸膣瘻の外科的治療では、肛門と外陰の中間部に設けた水平切開創(Horizontal incision)を、直腸と膣前庭のあいだに生じた連絡孔を横切る深さまで伸展させてから、直腸側の瘻孔を横方向に縫合閉鎖(Transverse closure of rectal tissue)した後、膣前庭側の瘻孔を長軸方向に縫合閉鎖(Longitudinal closure of vestibular shelf)します。また、会陰体部に切開創を設けない術式としては、直腸側からアプローチして、瘻孔の辺縁を切除した後、粘膜下組織と粘膜を別々に縫合閉鎖する手法や、膣側からアプローチして、膣前庭粘膜根フラップを反転および縫合することで、瘻孔を閉鎖する手法も試みられています。

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