馬の病気:馬ヘルペス流産
馬の生殖器病 - 2015年08月21日 (金)

馬ヘルペス流産(Equine herpesvirus abortion)について。
一型馬ヘルペスウイルス(Equine herpes virus type-1: EHV-1)の感染に起因して流産を起こす疾患ですが、稀に四型馬ヘルペスウイルス感染(EHV-4)も流産の原因となることが示唆されています。殆どの馬は、生後一年以内に呼吸器経路によってEHV-1に暴露され、長期間にわたる潜伏感染(Latent infection)を起こすことが知られています。EHV-1感染による流産は、全身性疾患(Systemic illness)や輸送(Transportation)などのストレスによる免疫低下から引き起こされ、急激な胎盤剥離(Rapid placenta separation)によって胎児が窒息(Fetal suffocation)を呈することで流産に至ります。しかし、死亡胎児の排出後には、免疫系細胞によって再び生殖器官からEHVが速やかに駆除されるため、その後の受精能(Fertility)には影響しないことが報告されています。
妊娠牝馬におけるEHV-1感染では、第一および第二の三半期(First and second trimesters)では神経症状を起こす症例が多く、第三の三半期(Third trimester)では流産に至る可能性が高いことが示されています。しかし、流産自体は母馬の臨床症状を伴うことなく、急性発現性(Acute onset)に起こることが一般的です。胎児への経胎盤感染(Transplacental infection)が妊娠末期に生じた場合には、生存した胎児が分娩される場合もありますが、感染胎児はその後に斃死することが殆どです。
馬ヘルペス流産の診断では、胎児組織の蛍光抗体染色(Fluorescent antibody staining of fetal tissue)、流産胎児からのウイルス分離(Virus isolation from the aborted fetus)、肝臓や肺組織におけるウイルス封入体(Viral inclusion bodies in liver and lung)の観察などが行われ、PCR法によるウイルス遺伝子の高感度な検知も試みられています。母馬の血清抗体価の上昇(Increased serum antibody titer)を検知する手法では、流産自体はウイルス感染から数週間を経て発症するため、診断指標としては感度や信頼性が低いことが示されています。また、胎児組織の病理学的検査(Histologic evaluation)では、リンパ組織、肝臓、副腎皮質(Adrenal cortex)における壊死病巣(Necrotic lesions)や好酸球性細胞質内封入体(Intracellular eosinophilic inclusion body)などが認められます。
馬ヘルペス流産の予防としては、ワクチン接種では流産を完全に防ぐことは出来ないものの、発症率を顕著に低下できることが示唆されているため、妊娠期間中の五週目、七週目、九週目にワクチン接種を行う指針が推奨されています。妊娠牝馬のウイルスへの暴露を予防するため、牧場の他の馬すべてに予防接種を行うと共に、妊娠牝馬を他の馬から離して飼養し、新しい入厩馬は最低三週間にわたって隔離します。また、ストレスの要因となりうる長距離輸送や過密放牧などを避けることも重要です。
馬ヘルペス流産が起こった牧場では、飼養環境を汚染しないように速やかに死亡胎児を処分して、母馬の馬房の消毒を行います。また、感染拡大を防ぐため、流産発生の三ヶ月以内は如何なる馬もその牧場から退厩させないことが大切です。
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