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馬の病気:胎盤炎

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胎盤炎(Placentitis)について。

細菌および真菌感染に起因する胎盤の炎症から流産(Abortion)に至る疾患で、原因菌としてはStreptococcus属菌、大腸菌、Pseudomonas属菌、Klebsiella属菌、Staphylococcus 属菌、Leptospira属菌、Aspergillus属菌、Mucor属菌などが挙げられ、Nocardioform actinomycetes菌(Amycolatopsis, Crossiella, etc)による胎盤炎の症例も報告されています。感染経路としては、子宮頚管を介しての上行感染(Ascending infection via cervix)が最も一般的ですが、血行性細菌侵入(Hematogenous bacterial invasion)によって発症する場合もあります。

胎盤炎の症状としては、流産の発現前に腟分泌物(Vaginal discharge)の排出と早発性乳腺発育(Premature udder development)が見られ、また、膣鏡検査(Speculum examination)では、子宮頚管の弛緩と膿性滲出液(Purulent exudate)の排出が認められます。

胎盤炎の診断では、経直腸超音波検査(Transrectal ultrasonography)が有用であり、子宮頚管に近い部分の絨毛尿膜(Allantochorion)において、胎盤炎の初期病態が観察され易いことが知られています。胎盤炎の罹患馬における超音波検査では、胎盤と子宮の厚さの合計値(Combined thickness of uterine and placenta: CTUP)が増加し、胎盤剥離(Placental separation)や高反響性胎児液(Hyperechoic fetal fluids)が認められる症例もあります。正常な妊娠牝馬では、最も薄い部分のCTUPが7.1±1.6mmで、最も厚い部分のCTUPが11.5±2.4mmであることが示されています。また、Nocardioform菌による胎盤炎の罹患馬では、子宮頚管よりも深部で、子宮角基底部(Base of uterine horn)における肥厚化を示す症例が多いことが報告されています。そして、経腹壁超音波検査(Transabdominal ultrasonography)では、胎児の心拍数増加(正常値:毎分75±7回)を確認して、胎盤の異常所見が胎児の生存性に有意に影響しているかを判定することも重要です。

馬の胎盤はProgestagensの分泌に関与して、妊娠4~5ヶ月目に黄体(Corpora lutea)が消失した後も妊娠を維持する機能を担っています。このため、慢性胎盤炎では胎児負担に起因するProgesterone血清濃度の上昇が見られますが、急性胎盤炎では流産直前にProgesterone血清濃度の急激な下降が見られることが報告されています。つまり、ホルモン測定による流産の危険性の評価のためには、連続的な血清ホルモン濃度の測定を要することが示唆されています。

胎盤炎の治療では、全身性抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)による細菌感染の減退と、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与による炎症反応の制御を試みます。この際には、通常は広域抗生物質(Broad-spectrum antibiotics)が選択されますが、Gentamicinは妊娠後期の胎盤組織を通過しにくい可能性が示されています。また、Progestin製剤(Altenogest, etc)の補給療法(Supplemental therapy)によって、プロスタグランディンとオキシトシンの受容体上方制御(Prostaglandin and oxytocin receptor upregulation)を抑制して、この結果、子宮筋活動の減退(Reduction of myometrial activity)と子宮静止化(Uterine quiescence)を施すことで、流産の発生を予防する療法が併用されること一般的です。同様に、ベータ2交感神経作動薬(Beta-2 sympathomimetic drugs: Clenbuterol, etc)の経口投与による子宮運動の抑制や、Pentoxyfylline投与による組織虚血の改善(Treating tissue ischemia)と炎症変調(Inflammation modulation)が試みられる場合もありますが、その効能に関しては論議があります。

胎盤炎に起因する流産が起こった場合には、子宮洗浄(Uterine lavage)と抗生物質注入(Antibiotic infusion)を行って、翌春の種付けにおける受精能および繁殖能の維持に努めることが重要です。また、流産自体が一型馬ヘルペスウイルス(Equine herpes virus type-1)の感染などの他の原因で起こった可能性を考慮して、死産胎児は速やかに処分し、母馬の馬房の消毒を行うことが推奨されています。胎盤炎を起こした高齢の繁殖牝馬に対しては、胎盤炎再発の危険を減少させるため、陰門形成術(Vulvoplasty:いわゆるCaslick procedure)によって、上行性細菌感染の予防が試みられる場合もあります。

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