馬の病気:黄体遺残
馬の生殖器病 - 2015年08月24日 (月)

黄体遺残(Persistent corpus luteum)について。
正常時には排卵(Ovulation)から14~15日後において、子宮内膜(Endometrium)から分泌されるPGF2-alpha(Prostaglandin F2alpha)によって退行する黄体(Corpus luteum)が、その後も卵巣内に遺残する疾患です。馬における妊娠維持は、妊娠0~45日目では主に一次黄体(Primary corpus luteum)から分泌されるProgesterone、妊娠45~150日目では主に二次黄体(Secondary corpus luteum)から分泌されるProgesterone、妊娠150日目以降では主に胎盤(Placenta)から分泌されるProgesteroneによって維持されています。
正常な受精と妊娠が起こった牝馬における黄体遺残の病因としては、母体妊娠認知(Maternal recognition of pregnancy)が生じる妊娠14~16日目以降に早期胚芽死(Early embryonic death)が生じることで、二次黄体が妊娠35~90日目に掛けて機能維持を示すことが挙げられます。受精と妊娠が起こらなかった牝馬における黄体遺残の病因としては、子宮内膜炎(Endometritis)や子宮蓄膿症(Pyometra)に起因するPGF生成不足(Insufficient prostaglandin synthesis)や、発情間期の後期における排卵(Late diestrous ovulation)に起因して黄体が成長不全(Insufficiently mature corpus luteum)とPGFへの反応低下(Poor response to prostaglandin)を示して黄体遺残に至ることが挙げられています。また、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与によってPGFの生成阻害を起こすことも素因になると考えられています。
黄体遺残の罹患馬では、繁殖期間中にも関わらず正常な発情行動(Estrus behavior)を示さない所見を特徴とし、血液検査によって血清プロジェステロン値の上昇が見られます。黄体遺残の診断では、経直腸超音波検査(Transrectal ultrasonography)によって、卵巣内の高反響性構造体(Hyperechoic structure within ovary)が認められ、子宮内膜炎や子宮蓄膿症の併発を確認したり、顆粒膜細胞腫(Granulosa-theca cell tumor)を除外診断することも重要です。直腸検査(Rectal examination)では子宮や子宮頚管の緊張(Cervical/Uterine tone)が触知され、膣鏡検査(Speculum examination)では、子宮頚管外孔部が乾燥して堅固に閉鎖している所見が認められます。
黄体遺残の治療では、慎重な経直腸超音波検査によって妊娠(Pregnancy)を除外診断してから、PGF製剤(PGF product: Dinoprost tromethamine, etc)やPGF類似体(PGF analog)の投与が行われます。しかし、発情行動を示すことなく成熟発情間期卵胞(Mature diestrous follicle)が形成されていた患馬においては、PGF投与によるProgesterone濃度の低下から排卵を起こす事もあるため、経時的な超音波検査を介して卵胞活動をモニタリングしながら適切なPGF投与のタイミングを見極めることが重要です。
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