馬の病気:顆粒膜細胞腫
馬の生殖器病 - 2015年08月24日 (月)

顆粒膜細胞腫(Granulosa-theca cell tumor)について。
馬において最も多く見られる卵巣腫瘍で、通常は成長の遅い片側性の良性腫瘍(Slow growing unilateral benign tumor)の病態を示します。顆粒膜細胞腫は、卵胞のステロイド産生細胞(Follicular steroidogenic cells)の異常に起因し、InhibinとTestosteroneの分泌が見られます。
顆粒膜細胞腫の症状としては、無発情(Anestrus)、持続性発情(Constant estrus)、不規則な発情(Irregular estrus)、種牡馬様行動(Stallion-like behavior)などを示し、不妊症(Infertility)を呈します。また、軽度の腹痛症状(Mild abdominal discomfort)、跛行(Lameness)、貧血(Anemia)などの症状が見られる症例もあります。
顆粒膜細胞腫の診断では、経直腸超音波検査(Transrectal ultrasonography)によって、卵巣の大型化に併せて、多発性嚢胞様構造(Multicystic structure)や蜂の巣様構造(Honeycombed structure)が認められますが、硬化性腫瘤(Solid mass)や単一大型嚢胞(Single large cyst)の形状をとる症例もあります。反対側の卵巣は、小型で非活動性(Small and inactive in the contralateral ovary)であることが一般的です。また、慎重な超音波検査によって、同じく無発情症状を示す黄体遺残(Persistent corpus luteum)の除外診断を下し、卵巣の肥大化を呈する卵巣血腫(Ovarian hematoma)や卵巣膿瘍(Ovarian abscess)との鑑別診断を行うことも重要です。血液検査では、90%の症例においてInhibinの血清濃度の上昇(>0.7ng/ml)、50~60%の症例においてTestosteroneの血清濃度の上昇(100-200pg/ml)が認められ、卵胞発育(Follicular development)や排卵(Ovulation)が起こらないことから、Progesteroneは通常は低値(<1ng/ml)を示します。
顆粒膜細胞腫の治療では、繁殖用の飼養目的や種牡馬様行動の矯正のため、罹患側の卵巣摘出術(Ovariectomy)が必要となる場合が多く、膣切開術(Colpotomy)、膁部開腹術(Flank laparotomy)、腹側正中開腹術(Ventral midline laparotomy)、腹腔鏡手術(Laparoscopy)等の術式が用いられます。このうち、起立位での腹腔鏡手術が安価かつ安全(患馬の気質による)で、内臓が下方(腹側腹腔域)に位置することから卵巣周辺の術野を確保し易く、最も有用な術式であることが提唱されています(設備が整っていれば)。また、繁殖飼養が目的でない症例に対して外科治療が応用される場合には、術前に馬主に対して、卵巣摘出によって種牡馬様行動が完全には消失しない可能性もあることを伝えておく事が大切です。
顆粒膜細胞腫の予後は一般に良好で、術後にも正常な繁殖牝馬としての飼養が可能であることが示唆されていますが、術前に子宮内膜および子宮頚管の生検(Endometrial/Cervical biopsy)を行って、卵巣以外の生殖器が健常であるのを確認するべきであるという提唱が成されています。術後に、反対側の卵巣が通常の発情サイクルへと回帰するまでには、6~8ヶ月を要する症例が多いことが報告されています。
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