馬の病気:アトピー性皮膚炎
馬の皮膚病 - 2015年08月25日 (火)

アトピー性皮膚炎(Atopic dermatitis)について。
環境性のアレルギー起因抗原(Environmental allergen)に対する異常免疫反応(Abnormal immunologic response)に起因して、掻痒症(Pruritus)を伴う皮膚炎を起こす疾患で、原因抗原としては、花粉(Pollen)、厩舎粉塵(Barn dust)、カビ(Molds)、ダニ(Mites)、雑草(Weeds)、牧草(Grasses)などが挙げられています。馬のアトピー性皮膚炎では、免疫グロブリンE(Immunoglobulin E: IgE)の生成を伴う一型過敏反応(Type-I hypersensitivity response)が病因であると考えられ、家系性素因(Familial predisposition)の関与も示唆されています。
アトピー性皮膚炎の症状としては、顔、遠位肢、体躯等における脱毛(Alopecia)、紅斑(Erythema)、蕁麻疹(Urticaria)、丘疹(Papules)などを呈し、二次性膿皮症(Secondary pyoderma)、過剰鱗屑(Excessive scaling)、痂皮性丘疹(Encrusted papules)(いわゆる粟粒性皮膚炎:Miliary dermatitis)が認められる場合もあります。また、多くの症例において、罹患部に噛み付いたり擦り付ける行動によって、擦過傷(Excoriation)や自己誘導性貧毛症(Self-induced hypotrichosis)、および二次性細菌感染(Secondary bacterial infection)を示します。病因論の類似性にも関わらず、アトピー性皮膚炎と回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)(いわゆる息労:Heaves)の併発は殆ど見られません。
アトピー性皮膚炎の診断では、視診と触診、および他の皮膚疾患の除外診断が行われ、また、皮内試験(Intradermal testing)によるアレルギー起因抗原の同定が試みられます。しかし、初診時に既に行われていた内科治療によっては偽陰性結果(False-negative results)を示す可能性があるため、経口コルチコステロイドでは三週間、経静脈コルチコステロイドでは八週間、抗ヒスタミン剤(Antigistamines)では十日間の休薬期間をおいた後に、皮内試験を実施することが推奨されています。また、陽性結果は必ずしもアトピー性皮膚炎発症との因果関係を証明するわけではない事を充分に考慮して、皮膚炎発現の季節性等を加味しながら(花粉なら夏季に好発、厩舎粉塵なら冬季に好発、etc)、慎重に推定診断を下すことが重要です。皮内試験のための毛刈りを馬主が望まない症例においては、血清学的検査(Serologic testing: RAST, ELISA, etc)によるIgEの探知が試みられる場合もありますが、その信頼性に関しては論議があります。
アトピー性皮膚炎の治療では、コルチコステロイド療法(Prednisolone, Dexamethasone, etc)による掻痒症および蕁麻疹の制御が行われますが、ステロイド性肝障害(Steroid hepatopathy)、蹄葉炎(Laminitis)、医原性副腎皮質機能亢進症(Iatrogenic hyperadrenocorticism)等の副作用の危険を考慮して、抗ヒスタミン剤であるHydroxyzine、Cetirizine、Doxepin等の投与が実施される場合もあります。4~6ヶ月以上にわたって症状改善が認められない症例に対しては、抗原特異性免疫療法(Allergen-specific immunotherapy)を介しての減感作(Hyposensitization)が試みられる場合もあり、皮内試験の結果に基づいて、水様性抗原(Aqueous allergen)を一定期間おき(通常は隔日で)に徐々に濃度や量を上げながら皮下注射する指針が用いられる事が一般的です。この療法では、2~3ヶ月で症状改善が見られる場合もありますが、最低一年間は投与を継続させることが推奨されており、また、皮膚炎の再発(Recurrence)を呈する期間を症例ごとに見極めて、追加投与(Booster administration)のタイミングを決定することが重要です。アトピー性皮膚炎に対する補助的寮法としては、シャンプーによる定期的な馬体の丸洗いによって原因抗原を皮膚表面から物理的に除去したり、必須脂肪酸(Essential fatty acid)の飼料添加や、抗掻痒剤(Antipruritic agents)の局所塗布(Topical application)による効能も報告されています。
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