馬の病気:デルマトフィルス症
馬の皮膚病 - 2015年08月26日 (水)

デルマトフィルス症(Dermatophilosis)について。
グラム陽性繊維状好気性菌(Gram-positive filamentous aerobic bacteria)である放線菌(Actinomycete bacterium)に属する、Dermatophilus congolensis細菌の感染によって皮膚炎を起こす疾患です。D.congolensisの伝播はハエやマダニを介して起こりますが、この細菌は湿気のある環境でのみ増殖できることから、屋外で飼養されている馬において、降雨後に皮膚表面が湿っている状態が長く続くことが病因となることが知られています。また、高気温(High ambient temperature)、高湿度(High relative humidity)、栄養不足(Poor nutrition)、不衛生環境(Poor hygiene environment)、長距離輸送などのストレス等も素因となる可能性が示唆されています。
デルマトフィルス症は秋~冬季に好発し、雨に濡れる馬体背側部に病変が見られることが一般的ですが、ぬかるんだ牧草地に放牧されていた個体では下肢部に発症する場合もあり、これらの病巣発現の形態から、デルマトフィルス症を『雨やけど』(Rain scald)または『つゆ毒症』(Dew poisoning)と呼ぶこともあります。デルマトフィルス症の病変部位では、化膿性痂皮形成(Suppurative crust formation)を呈し、痂皮は体毛と一緒に剥がれ落ちて、ピンク色の湿った皮膚表面が露出する所見が認められます。
デルマトフィルス症の診断では、屋外飼養の病歴や特徴的な病変発生部位によって推定診断が可能な症例が多く、痂皮病巣の病理組織学的検査(Histopathologic examination)によって、グラム染色に陽性を示し、“線路様”球菌の外観(Railroad track cocci appearance)を示すD.congolensisを発見することで確定診断が下されます。また、痂皮検体を用いての細菌培養(Bacterial culture)が行われる場合もあります。皮膚生検(Skin biopsy)では、化膿性管腔毛包炎(Suppurative luminal folliculitis)や表皮内膿疱性皮膚炎(Intraepidermal pustular dermatitis)等の所見が見られ、類似疾患である皮膚糸状菌症(Dermatophytosis)、細菌性毛包炎(Bacterial folliculitis)、毛包虫症(Demodicosis)などの除外診断を行います。
デルマトフィルス症の治療では、患馬を厩舎飼養に移行させて皮膚表面を乾燥させた状態に維持することを第一指針とし、痂皮病巣を手動除去(Manual removal of crusts)した後、IodophorsまたはLime sulfurによる病変部位の洗浄や消毒を行い、全身性抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy: Penicillin-G, Trimethoprim-sulfa, Oxytetracycline, etc)を7~10日間にわたって実施します。除去した痂皮は病原細菌を多量に含み、デルマトフィルス症の伝播源となるため、馬房や床面に落とさず適切に廃棄処理することが重要です。
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