馬の病気:皮膚糸状菌症
馬の皮膚病 - 2015年08月27日 (木)

皮膚糸状菌症(Dermatophytosis)について。
Microsporum属やTrichophyton属などの真菌感染(Fungal infection)に起因して皮膚炎を起こす疾患で(いわゆる白癬:Ringworm)、二歳齢以下の若馬に好発することが知られています。原因菌としてはT.equinumが最も多く分離されますが、T.mentagrophytes、T.verrucosum、M.equinum、M.gypseum等による発症も報告されています。
皮膚糸状菌症の症状としては、初期病態では直径2~5mmの丘疹形成(Papular formation)を呈しますが、指圧によっても病変部位が陥没できない所見(Do not pit with digital pressure)で、蕁麻疹(Urticaria)との鑑別が行われます。病状の進行に伴って、円形の脱毛(Circular alopecia)、鱗屑(Scaling)、痂皮(Crusting)の形成が見られますが、掻痒症(Pruritus)を呈する症例はあまり多くありません。皮膚糸状菌症の典型的な症状としては、輪状病変(Classic ring lesion)が挙げられ、これは、中心の治癒部位(Central healing site)の外側に濾胞状丘疹(Follicular papules)が生じて、その外周に痂皮形成が見られる状態を指します。しかし、この輪状病変の発生は、全ての罹患馬に見られるわけではないので、病変の視診のみで推定診断を下すことは適当でないという警鐘が鳴らされています。
皮膚糸状菌症の診断では、病変部から摘んだ体毛(Plucked hair)の直接鏡検によって菌糸(Hyphae)や分節胞子(Arthrospores)を確認したり、体毛もしくは鱗屑を用いての真菌培養(Fungal culture)による病原菌の特定が試みられますが、Microsporum属やTrichophyton属の真菌は健康馬の体表からも稀に分離されるため、偽陽性結果(False-positive result)を示す可能性も示唆されています。皮膚生検(Skin biopsy)を介しての病理組織学的検査(Histopathologic examination)では、表層鱗屑(Surface scale)や体毛片(Hair fragment)に沿って中隔菌糸(Septate yphae)、仮性菌糸(Pseudohyphae)、厚膜胞子様細胞(Chlamydospore-like cells)が認められます。また、リンパ球浸潤性壁在性毛包炎(Lymphocytic infiltrative mural folliculitis)、膿肉芽腫性癰腫症(Pyogranulomatous furunculosis)、錯角化性角質増殖(Parakeratotic hyperkeratosis)を伴う肥厚性血管周囲皮膚炎(Hyperplastic perivascular dermatitis)、表皮内膿疱性皮膚炎(Intraepidermal pustular dermatitis)などの所見を確認し、類似疾患であるデルマトフィルス症(Dermatophilosis)や細菌性毛包炎(Bacterial folliculitis)の除外診断を行います。
皮膚糸状菌症は、殆どの症例において、三ヶ月以内に自然治癒(Spontaneous remission)することが報告されていますが、完治までは騎乗や調教を中止する必要があり、二次性の細菌感染(Secondary bacterial infection)を起こす危険もあることから、全ての患馬に対して内科療法を実施して、病変部の早期治癒を促すことが推奨されています。皮膚糸状菌症の治療では、抗真菌剤軟膏(Antifungal ointment)の局所塗布が行われ、Amphotericin-B、Clotrimazole、Miconazole、Thiabendazole等の抗真菌剤に、BethamethasoneやDexamethasoneなどのコルチコステロイドを含有させた薬剤が用いられており、また、Lime sulfur、Eniconazole、Miconazoleを含むシャンプーによる病変部の洗浄および殺菌が併用される事もあります。全身性療法(Systemic therapy)としては、Griseofulvinの経口投与が行われますが、効果的な馬の皮膚糸状菌症の治療のためには、投与量を規定値よりも増加させる必要性が示唆されています。
皮膚糸状菌症の予防としては、東欧や北欧において改良生ワクチン(Modified live vaccine)の接種によって良好な発症率の低下が期待できることが示されています。また、病原菌の胞子は、環境中では数ヶ月~数年にわたって生存することを考慮して、除去した痂皮および鱗屑は、馬房や床面に落とさず適切に廃棄処理することが重要です。
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