馬の病気:シラミ症
馬の皮膚病 - 2015年08月28日 (金)

シラミ症(Pediculosis)について。
シラミ寄生(Lice infection)に起因して皮膚炎を起こす疾患で、外気温の低下と体毛伸長が素因となるため、冬季における発症率が高いことが知られています。馬におけるシラミ症の病原体としては、Biting lice(Mallophaga)に分類されるDamalinia equi、および、Sucking lice(Anoplura)に分類されるHaematopinus equiが最も多く分離されています。
シラミ症の病変は、Biting liceでは体躯外背部(Dorsolateral trunk)、Sucking liceではたてがみ、尾根部、球節部に好発し、症状としては、鱗屑(Scaling)、脱毛(Alopecia)、掻痒症(Pruritus)などが認められます。また、掻痒部位を持続的に噛み付くことによって擦過傷(Excoriation)を起こしたり、飲み込んだ体毛による小腸便秘や大腸便秘(Small/Large intestinal impaction)、および、毛石(Trichobezoars)の形成に起因する小結腸の通過障害(Small colon obstruction)を続発する症例もあります。
シラミ症の診断では、病歴、視診、触診によって推定診断(Presumptive diagnosis)が可能な症例もありますが、皮膚掻爬検体(Skin scraping sample)の直接鏡検によって虫体を発見することで、確定診断(Definitive diagnosis)が下されます。また、皮膚生検(Skin biopsy)による病理組織学的検査(Histopathologic examination)では、好酸球浸潤(Eosinophil infiltration)を伴う血管周囲性および間質性の皮膚炎(Perivascular to interstitial dermatitis)、限局性表皮壊死(Focal epidermal necrosis)、表皮性微細膿瘍(Epidermal micro-abscess)などが見られ、類似の臨床症状を示すショクヒヒゼンダニ(Chorioptic mange)、キュウセンヒゼンダニ(Psoroptic mange)、疥癬虫(Sarcoptic mange)等の感染症との鑑別診断を行います。
シラミ症の治療においては、Ivermectinの全身投与はSucking liceの駆除には有効ですが、Biting liceに対しては充分な効能が期待できないと考えられています。局所療法(Topical therapy)としては、硫化セレンシャンプー(Selenium sulfide shampoo)による病変部位の洗浄と消毒が有効で(5~10分間の接触時間後にシャンプーを洗い流す)、洗い落とし易い成虫のみならず虫卵も完全に除去するため、複数回のシャンプーを実施することが推奨されています。冬季における発症や、罹患馬の数が多くシャンプー療法の実施が困難かつ煩雑である場合には、Pyrethris、Pyrethoids、Malathion、Coumaphos、Lime sulfur等を含有する殺虫剤の局所塗布(Topical application of insecticides)や、Fipronil製剤のスプレー塗布が行われる事もあります。
Sucking liceおよびBiting liceの成虫は、馬体表面から離れると長期間は生存できないことが知られていますが、同一厩舎や牧場内でのシラミ寄生の拡大を防ぐため、念のため罹患馬に使用したブラシ、飼い桶、曳き手などの消毒を行う事が重要です。
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.