馬の病気:皮膚回旋糸状虫症
馬の皮膚病 - 2015年08月29日 (土)

皮膚回旋糸状虫症(Cutaneous onchocerciasis)について。
回旋糸状虫属(Onchocerca spp)である頸部糸状虫(Onchocerca cervicalis)のミクロフィラリア感染に起因して皮膚炎を起こす疾患で、回旋糸状虫に良好な効能を示す駆虫剤の普及で、近年ではあまり見られなくなった皮膚疾患です。頸部糸状虫はヌカカまたは蚊(Gnats/Mosquitoes)が中間宿主(Intermediate hosts)となり、春~夏季に発症が多いことが知られています。頸部糸状虫は健常馬の皮膚表層にも認められ、寄生虫を有する全ての馬が皮膚炎を発症するわけではない事から、皮膚回旋糸状虫症ではミクロフィラリア抗原(Microfilaria antigen)に対する過敏反応(Hypersensitivity reaction)が関与すると考えられています。
皮膚回旋糸状虫症の病変は、顔面、頚部(タテガミの付け根)、腹部正中線(Ventral midline)に特に多く見られ、限局性輪状脱毛(Focal annular alopecia)、鱗屑(Scaling)、痂皮(Crusting)などが認められます。また、病変部位における掻痒症(Pruritus)、紅斑(Erythema)、潰瘍(Ulceration)、苔癬化(Lichenification)を伴う症例も見られ、慢性経過を示した場合には白斑(Leukoderma)や乾性脂漏症(Seborrhea sicca)を示すこともあります。皮膚回旋糸状虫症の罹患馬では、眼性回旋糸状虫症(Ocular onchocerciasis)を併発することもあるため、必ず眼科検査を実施して、硬化性角膜炎(Sclerosing keratitis)、眼球結膜尋常性白斑(Bulbar conjunctiva vitiligo)、視神経乳頭色素脱失(Optic disc depigmentation)、ブドウ膜炎(Uveitis)などの有無を確かめる事が重要です。
皮膚回旋糸状虫症の診断では、皮膚擦過検体(Skin scraping sample)や血液検査によるミクロフィラリアの発見は困難であるため、パンチ皮膚生検(Punch skin biopsy)の検体を細かく刻んで生食に浸した後、遊離したミクロフィラリアを鏡検で確認する手法が有効です。また、皮膚生検を介しての病理組織学的検査(Histopathologic examination)では、表皮浅部層において脱顆粒好酸球(Degranulating eosinophils)に囲まれた多量のミクロフィラリアが認められます。頸部糸状虫は正常馬の皮膚にも認められるため、ミクロフィラリアの存在のみで確定診断(Definitive diagnosis)を行うことは適当でないという警鐘が鳴らされており、臨床所見や病理組織学所見、および類似疾患であるデルマトフィルス症(Dermatophilosis)を痂皮病巣の病理検査や細菌培養によって除外診断することで、皮膚回旋糸状虫症の推定診断(Presumptive diagnosis)が下されることが一般的です。
皮膚回旋糸状虫症の治療では、IvermectinおよびMoxidectinの単回経口投与によって、二週間以内に良好な治癒が見られることが一般的で、コルチコステロイド療法(Prednisolone, Dexamethasone, etc)が併用される場合もあります。しかし、多量のミクロフィラリアの死滅によって、治療開始後の3~4日目において、皮膚&眼性回旋糸状虫症の一時的な症状悪化を示す症例があることも報告されています。
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