馬の病気:皮膚馬胃虫症
馬の皮膚病 - 2015年08月30日 (日)

皮膚馬胃虫症(Cutaneous habronemiasis)について。
馬胃虫(Habronema majus, Habronema muscae, Draschia megastoma)の幼虫寄生に起因して、顆粒性皮膚炎(Granular dermatitis)を起こす疾患で、夏創(Summer sores)、沼地癌(Swamp cancer)、Bursautee、Bursatti、Kunkurs、Esponja等の俗病名が用いられる事もあります。
馬胃虫の感染に際しては、糞便中に排出された虫卵が、中間宿主(Intermediate host)である家バエ(Housefly: Musca domestica)(=H.muscae,およびD.megastoma)または厩舎バエ(Stable fly: Stomoxys calcitrans)(=H.majus)に摂食され、このハエ類が馬体に産卵した後、罹患馬がその幼虫を飲み込むことで生活環が確立されますが、体表に存在する幼虫の迷入によって、創傷部位や眼粘膜などに皮膚病変を生じます(馬胃虫幼虫は正常な皮膚表面からは侵入できないため)。皮膚馬胃虫症は、同一馬に毎年見られることの多い散発性疾患(Sporadic disease)で、コルチコステロイド療法が有効であることなどから、その発症には過敏性反応(Hypersensitivity reaction)が関与することが示唆されています。
皮膚馬胃虫症の病変は、四肢、腹部(Ventrum)、包皮(Prepuce)、内側眼角(Medial canthus of eyes)などに好発し、晩春~夏季に多く発症することが知られています。皮膚馬胃虫症の症状としては、創傷部位の治癒遅延(Delayed healing)と過増殖性肉芽組織形成(Exuberant granulation tissue formation)を起こし、結膜病変(Conjunctival lesions)では、眼瞼や眼球結膜の砂利様プラーク(Palpebral/Bulbar conjuncitival gritty plaques)と、それに伴う眼瞼肉芽腫(Eyelid granulomas)および眼瞼炎(Blepharitis)を呈します。
皮膚馬胃虫症の診断では、視診および触診によって推定診断(Presumptive diagnosis)が行われることが一般的ですが、確定診断(Definitive diagnosis)は皮膚生検(Skin biopsy)によって病巣内に馬胃虫幼虫を発見することで下されます(罹患馬の約五割)。また、PCR法を用いて高感度に病原体を検知する手法も試みられています。病理組織学的検査(Histopathologic examination)では、多量の好酸球浸潤(Numerous eosinophil infiltration)を伴う分散性凝固壊死(Discrete coagulation necrosis)が認められ、類似疾患である細菌&真菌性肉芽腫(Bacterial/Fungal granulomas)、サルコイド(Sarcoid)、扁平上皮癌(Squamous cell carcinoma)などとの鑑別診断を試みます。
皮膚馬胃虫症の治療では、肉芽腫病変の外科的切除(Surgical removal)または凍結療法(Cryotherapy)が行われ(可能な場合)、全身性または局所性のコルチコステロイド療法(Systemic/Topical corticosteroid therapy)が併用されます。局所療法の実施に際しては、患部へのバンテージ装着が推奨されますが、実施が困難な場合にはハエよけ軟膏(Fly repellant ointment)を塗布することが重要です。また、IvermectinやMoxidectinによる全身性駆虫治療(Systemic parasiticidal treatment)が併用される事もありますが、病巣内の幼虫はいずれ死滅し、駆虫剤によっても直ちに殺虫されるわけではないので、駆虫剤使用の有意性については賛否両論があります。皮膚馬胃虫症の発症が見られた牧場の全飼養馬に対しては、適切な駆虫剤投与を定期的に実施することで、消化器内の幼虫駆除を行うことが大切です。
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