馬の病気:サルコイド
馬の皮膚病 - 2015年08月30日 (日)

サルコイド(Sarcoid)について。
サルコイドは高悪性度を呈する線維芽細胞性の新生物(Aggressive fibroblastic neoplasia)で、馬においては最も発症率の高い皮膚腫瘍(Most common equine cutaneous tumor)であることが知られています(馬の全皮膚腫瘍の35%)。馬のサルコイドの発症には、ウシ乳頭腫ウイルス(Bovine papilloma virus)の感染が関与すると考えられており、皮膚の外傷部位にサルコイド病変が形成されることが一般的です。また、アパルーサ、アラビアン、ウォーターホース等の品種に好発することも報告されています。
サルコイドはその形状によって、疣状(Verrucous)、線維芽状(Fibroblastic)、疣状と線維芽状の混合(Mixed verrucous and fibroblastic)、オカルト状(Occult)、結節状(Nodular)、メイルヴォレント状(Malevolent)などの病態に分類されています。サルコイドの病変は、口唇(Lips)、耳介(Pinnae)、眼周囲(Periocular region)、頚部、腹部、遠位肢などに多く見られ、寒冷な気候の地域では頚部や腹部に、温暖な気候の地域では遠位肢に好発することが示唆されています。サルコイドの病変表層は、脱毛性(Alopecic)、過角化性(Hyperkeratotic)、過色素性(Hyperpigmented)、潰瘍性(Ulcerated)などを生じることが一般的です。
サルコイドの診断は、皮膚生検(Skin biopsy)によって下されますが、病変部位を傷付けることによって静止状態(Quiescent form)の腫瘍が増殖状態(Proliferating form)に変化して、急激な腫瘤の成長を促す可能性があることから、特に疣状、オカルト状、結節状サルコイドの皮膚生検を行うことの危険性も指摘されています。特徴的なサルコイドの病理組織所見としては、表皮性過形成(Epidermal hyperplasia)を伴う線維芽細胞性増殖(Fibroblastic proliferation)が挙げられますが、特にオカルト状や結節状サルコイドではこの所見が顕著ではない場合もあります。また、シュワン細胞様外観(Schwannoma-like appearance)を示し、シュワン細胞腫(Schwannomas)との鑑別診断が難しい症例も多いことが知られています。このため、サルコイドの確定診断に際しては、メラノーマ(Melanoma)などの他の皮膚腫瘍や皮膚馬胃虫症(Cutaneous habronemiasis)を除外診断するため、病理組織学的検査に併せて、PCR法によるウシ乳頭腫ウイルスのDNAの検知(感度は88~93%)を行うことが推奨されています。
サルコイドの治療に際しては、サルコイド腫瘍は他の臓器への転移(Metastasis)を起こさず、約三割の症例において自然治癒(Spontaneous remission)を示すことから、病変部位の経過を一定期間モニタリングして、積極的治療を要するか否かを慎重に判断することが大切です。サルコイド病巣の外科的切除(Surgical resection)では、半年以内の再発率(Recurrence)が50~72%に及びますが、1cm以上の周辺組織切除(Margin removal)を行うことで、この再発率を18%まで減少できる可能性が示唆されています。液体窒素等を用いての凍結手術(Cryosurgery)では、42~100%の治癒率が報告されていますが、遠位肢や眼周囲などに生じたサルコイド病巣には実施できません。また、レーザー療法(Laser therapy)によるサルコイド病巣の治療では、半年~一年で62~81%の治癒率が期待できますが、術創の癒合不全(Incisional dehiscence)も四割の症例において見られることが報告されています。
サルコイドの非外科的療法においては、放射線治療(Radiotherapy)では、ガンマ線を用いた間質近距離照射療法(Interstitial brachytherapy)によって、50~100%の治癒率が報告されており、特に眼周囲に発症したサルコイドに対して有用であることが示されています。化学療法(Chemotherapy)では、Bleomycin(Blenoxane)の癌内投与(Intratumoral injection)によって75%の治癒率(特に直径2.5cm以下の病変において)、Cisplatin(Plantinol)の癌内投与によって77%の治癒率が報告されています。また、Podophyllin製剤、Arsenic pentoxide製剤、5-fluorouracil製剤などの局所塗布(Topical application)によって、40~50%の症例において良好な回復を示すことが知られています。更に、免疫療法(Immunotherapy)においては、様々なタイプのマイコバクテリア生成物(Micobacterial products)の病巣内投与によって、59~100%の治癒率が期待され、特に眼周囲サルコイドに対して有効であることが示唆されています。
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