馬の病気:メラノーマ
馬の皮膚病 - 2015年08月30日 (日)

メラノーマ(Melanoma)について。
メラノーマ(黒色腫)は、中~高齢馬に多く見られる皮膚腫瘍で(通常は六歳齢以上)、特に15歳齢以上の葦毛馬では、その八割が複数のメラノーマ病変を有することが知られています。メラノーマでは、メラニン異常代謝(Perturbed melanin metabolism)に起因するメラニン形成芽細胞(Melanoblast)の増殖または活動増加から、メラニン過剰生成(Melanin overproduction)を起こすことが知られていますが、その病因論は確立されておらず、人間のメラノーマを起こす紫外線暴露(Ultraviolet light exposure)の関与は重要ではないと考えられています。
メラノーマの病変は、尾根の裏側(Undersurface of tail head)や肛門周囲(Perianal region)に複数病巣(Multiple lesions)として最も多く見られますが、口唇、耳根、眼周囲、遠位肢などに単生病巣(Solitary lesion)として発症する場合もあります。メラノーマの病変部位は、硬化した結節状またはプラーク状外観(Firm nodular/plaque-like appearance)として認められ、脱毛性(Alopecic)、過色素性(Hyperpigmented)、潰瘍性(Ulcerated)などを示す場合もあります。メラノーマ症状の進行形態としては、転移を伴わない遅延性成長(Slow growth without metastasis)を示す場合、遅延性成長から急性成長(Rapid growth)と転移を示す場合、病変発現時から急性成長と転移を示す場合、という3パターンが知られています。
メラノーマの診断では、視診と触診によって推定診断が付けられることが一般的ですが、サルコイド(Sarcoid)などの他の皮膚腫瘍を除外診断するため、皮膚生検(Skin biopsy)を介しての病理組織学的検査(Histopathological examination)が行われる事もあります。メラノーマの病理検査では、良性腫瘍の所見を示すことから馬のメラノーマは非腫瘍性の色素性疾患(Non-neoplastic pigmentary disorder)であるという提唱が成されている反面、異型性の悪性腫瘍のメラニン形成芽細胞(Atypical and malignant melanoblast)を認めたという報告もあります。
メラノーマの治療を要する症例では、単生病巣のような外科的切除(Surgical resection)や冷凍手術(Cryotherapy)が可能な場合はあまり多くなく、病変の再発率(Recurrence rate)も比較的高いことが報告されています。また、メラノーマの術後には、腫瘍が増殖状態(Proliferating form)に変化して、急激な成長を示す可能性も示唆されています。メラノーマの内科的療法としては、小型の病変に対しては、化学療法(Chemotherapy)として抗癌剤であるCisplatinの病巣内投与が試みられる場合もあり、また、免疫調節作用(Immunomodulatory effect)を有するCimetidineの投与によって、約半数の症例において腫瘤退縮や腫瘍進行の停止が見られたという報告もあります。
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.