馬の病気:アミロイド症
馬の皮膚病 - 2015年08月31日 (月)

アミロイド症(Amyloidosis)について。
細胞外異常アミロイド沈着(Abnormal extracellular amyloid deposition)に起因して、皮膚炎を起こす疾患です。皮膚病変を引き起こす沈着物質としては、循環血漿グロブリン(Circulating plasma globulin)に由来するアミロイドP、免疫グロブリン軽鎖(Immunoglobulin light chain)に由来するアミロイドL、血清前駆蛋白(Serum precursor protein)に由来するアミロイドA、等が知られています。
馬のアミロイド症は、臓器限局性アミロイド症(Organ-limited amyloidosis)(=免疫細胞性アミロイド症)と、全身性アミロイド症(Systemic amyloidosis)(=反応性アミロイド症)に分類されます。臓器限局性アミロイド症では、単クローン性アミロイドLの沈着に起因して、皮膚および上部気道病変(Cutaneous/Upper airway lesions)を生じ、吸引抗原や毒素(Inhaled allergen/toxin)などの引き金因子(Triggering factors)が発症に関与すると考えられています。一方、全身性アミロイド症は、慢性炎症(Chronic infection)から引き起こされる、大食細胞産生性のアミロイドA沈着に起因しますが、皮膚病変の発現はあまり多くは見られません。
アミロイド症による皮膚病変は、頭部、頚部、肩部、前胸部、眼瞼部などに好発し、複数の丘疹(Multiple papules)、小結節(Nodules)、プラークなどの発現が見られます。また、稀に急性発現性(Acute onset)の蕁麻疹様外観(Urticarial appearance)を示す症例もあります。呼吸器病変を引き起こした場合には(=鼻咽頭アミロイド症:Nasopharyngeal amyloidosis)、鼻出血(Epistaxis)、呼吸困難(Rhinodyspnea)、プアパフォーマンス等の症状が認められる事もあります。
アミロイド症の診断においては、針吸引(Needle aspiration)による細胞診(Cytologic examination)では、多核組織球性巨細胞(Multinucleated histiocytic giant cells)や無定形好酸球性物質層(Irregular sheets of amorphous eosinophilic materials)を含有する、肉芽腫性炎症(Granulomatous inflammation)が観察され、ルゴールイオジン溶液(Lugol’s iodine solution)によって紫色~茶色に染まるアミロイドの存在を確認します。アミロイド症に見られる病理組織学的所見としては、肉芽腫性皮膚炎(Granulomatous dermatitis)や皮下脂肪組織炎(Panniculitis)が挙げられ、コンゴレッド染色(Congo red staining)によって赤色~緑色のコンゴレッド親和性を示すアミロイド沈着の存在を確かめます。
アミロイド症の治療では、酢酸メゲストロール(Megestrol acetate)の投与が試みられる場合もありますが、殆どの症例において病変は皮膚表層に限局し、予後は良好であることが一般的です。しかし、鼻咽頭アミロイド症による呼吸器症状を呈した症例においては、肉芽腫病変の外科的切除を要する場合もあります。馬のアミロイド症では、遺伝性素因(Genetic predisposition)の関与が示唆されており、繁殖馬としての飼養は推奨すべきではないという提唱も成されています。
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