馬の病気:ハト熱
馬の皮膚病 - 2015年09月01日 (火)

ハト熱(Pigeon fever)について。
コリネバクテリウム属菌(Corynebacterium pseudotuberculosis)の感染に起因して、皮下膿瘍(Subcutaneous abscess)を起こす疾患です。鳥類の鳩とは関係なく、多くの罹患馬において前胸部(Pectoral region)に膿瘍形成(Abscess formation)を生じて、その外観がハトに似ていることから、ハト熱という病名を用いられており、偽腺疫(False strangles)または乾燥地ジステンパー(Dryland distemper)と呼ばれる事もあります。原因菌は土壌中に常在し、創傷部位から感染が起こると考えられていますが、ハエ類の咬傷による媒介の可能性も示唆されています。米国では西海岸の洲での発症率が高いことが報告されています。
ハト熱の症状としては、初期病態では発熱(Fever)、嗜眠(lethargy)、抑鬱(Depression)、体重減少(Weight loss)、跛行(Lameness)などが認められ、病状の進行にともなって、前胸部をはじめ、頚部(Neck region)、臀部(Gluteal region)、腹部(Abdominal region)、遠位肢(Distal limb)などに膿瘍形成を生じ、潰瘍性リンパ管炎(Ulcerative lymphangitis)を併発する場合もあります。ハト熱の診断では、排膿部位からの浸出液検体、もしくは穿刺検体を用いての、細菌培養(Bacterial culture)と抗生物質感受性試験(Antimicrobial susceptibility test)が行われます。
ハト熱の治療では、発症部位の温熱パックによって自壊を促しますが、外科的な排膿(Surgical drainage)を要する場合もあります。膿瘍内は生食による洗浄と抗生物質注入が施され、深部組織での膿瘍形成が疑われた症例では、超音波検査(Ultrasonography)によって病巣の確認を行うことが重要です。また、病態の経過によっては、抗生物質および非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drug)の全身投与が行われます。
ハト熱の予後は一般に良好で、数週間~三ヶ月前後で病巣部位の治癒が見られますが、膿瘍の再発(Recurrence)を呈する症例もあることが報告されています。他の馬への伝播を防ぐため、膿瘍からの排液物質および罹患馬の敷料は適切に採取と廃棄を行い、病原菌による飼養環境の汚染を最小限に抑えることが大切です。
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