馬の病気:眼瞼内反症
馬の眼科病 - 2015年09月04日 (金)

眼瞼内反症(Entropion)について。
眼瞼が内反することで、眼瞼繊毛(Eyelid cilia)や皮膚体毛などによる角膜刺激(Cornea irritation)を起こす疾患です。馬における眼瞼内反症は、上眼瞼よりも下眼瞼に、内側眼瞼よりも外側眼瞼に、成馬よりも子馬に好発し、全身性疾患(Systemic illness)に続発する脱水(Dehydration)や眼窩脂肪の損失(Loss of orbital fat)に起因すると考えられています。
眼瞼内反症の診断は、通常は視診と触診によって下されますが、罹患側の眼や眼周囲組織の慎重な観察によって、眼瞼痙攣(Blepharospasm)や眼瞼炎(Blepharitis)の併発を確認し、眼瞼癒着(Ankyloblepharon)、類皮症(Dermoids)、眼欠損症(Coloboma)等の除外診断を行います。
眼瞼内反症の治療では、罹患側眼瞼への反転縫合糸(Everting suture)(通常は垂直マットレス縫合パターン)によって、一時性の眼瞼内反症整復(Temporary entropion repair)を施します。この際には、縫合糸が眼瞼組織全層を通過しないこと、過剰な反転(Overcorrection)を起こさないこと、縫合糸の結び目の先端が角膜に接触しないこと、等に注意する必要があります。病態よっては、複数の縫合糸の設置を要する場合もあります。
一時性整復に併行して、眼科抗生物質軟膏(Ophthalmic antibiotic ointment)の局所投与を4~6時間おきに施しながら、補液療法(Fluid therapy)や栄養補助療法(Nutritional support)による全身症状の改善を行います。また、生食(Saline solution)、ヒアルロン酸(Hyaluronic acid)、液状パラフィン等を眼瞼組織内に注射することで、一時性の眼瞼内反症整復を行う手法も報告されていますが、複数回の注射を要すること、炎症反応を起こし易いこと、瘢痕形成(Scaring formation)を生じる危険があること、等を考慮して、実施には賛否両論があります。
一時性整復および内科的療法に不応性(Refractory)を示す症例に対しては、外科的な永続性眼瞼内反症整復(Permanent entropion repair)が試みられます(Hotz-Celsus術式)。この手術では、眼瞼端から3mmの位置に最初の切開創を設け、遠位側に設けた楕円型切開創(Distal elliptical incision)によって、数mm~1cm(内反症の重篤度に応じて)の皮膚組織を切除した後、術創を単純結節縫合で閉鎖します。また、局所性眼瞼病巣(Localized eyelid lesion)に起因する眼瞼内反症の治療では、いわゆるY字→V字整復法(Y-to-V repair)を介して、病巣切除と眼瞼反転を施す術式が有効です。
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