馬の病気:細菌性角膜炎
馬の眼科病 - 2015年09月04日 (金)

細菌性角膜炎(Bacterial keratitis)について。
創傷性の角膜潰瘍(Traumatic corneal ulcer)の病変部位に細菌感染(Bacterial infection)を生じる疾患です(細菌そのものが潰瘍を起こす事はないため)。細菌性角膜炎の原因菌としては、Pseudomonas aeruginosaおよびStreptococcus equiが最も頻繁に分離されますが、他のStreptococcus属菌、Staphylococcus属菌、Acinetobacter属菌、Clostridium属菌、大腸菌(E.coli)などによる病態も報告されています。
創傷性角膜潰瘍の症状としては(細菌感染の有無に関わらず)、疼痛を示す眼瞼痙攣(Blepharospasm)や流涙(Epiphora)が見られ、結膜充血(Hyperemic conjunctiva)や羞明(Photophobia)などの症状を示します。潰瘍を起こした角膜部位では、蛍光染色(Fluorescein stain)が認められ、角膜実質層(Corneal stromal layer)に達する深部潰瘍においては、ほぼ確実に細菌感染を生じていると推測されます。また、白色~黄色の角膜混濁の急速な進行(Rapid progression of white/yellowish corneal opacity)を示したり、溶解性潰瘍病巣(Melting ulcerative lesion)が見られた症例では、細菌性角膜炎を発症したことが強く示唆されます。しかし、細菌性角膜炎は角膜実質膿瘍(Stromal abscess)の病態として見られる場合もあるため、蛍光染色の陰性反応のみで除外診断を下すことは適当ではありません。
細菌性角膜炎の確定診断は、角膜擦過検体(Corneal scraping sample)の鏡検によって、細菌、好中球(Neutrophils)、および、細胞内細菌(Intracellular bacteria)等を観察することによって下され、治療指針決定のため、擦過検体を用いての細菌培養(Bacterial culture)および抗生物質感受性試験(Anti-microbial susceptibility test)を実施することが重要です。
細菌性角膜炎の治療では、患馬にストレスを掛けることなく、4~8時間おきの頻繁な局所性投与(Topical administration)を確実かつ簡易に実施するため、眼瞼下洗浄システム(Subpalpebral lavage system)を介しての治療が必要とされ、侵襲性が低く薬剤迷入の危険が少ない単孔システム(Single-hole system)が用いられる事が一般的です。細菌性角膜炎の治療における抗生物質としては、鏡検によってグラム陰性菌が認められた場合にはCiprofloxacinやOfloxacinが用いられ、グラム陽性菌が認められた場合にはChloramphenicol、Neopolygram、Ticarcillin、Cefazolin等が用いられます。しかし、充分な症状改善が見られない場合には、感受性試験の結果を待って有効な治療薬を選択することが大切です。
溶解性の潰瘍病巣を示した症例に対しては、コラゲナーゼ酵素やプロテアーゼ酵素の抑制剤(Collagenase/Protease inhibitors)を併用することが必要で、通常は自己性血清(Autologous serum)やEDTAが用いられます。また、持続性の角膜刺激(Persistent corneal irritation)によって生じる還流性ブドウ膜炎(Reflux uveitis)を予防するため、散瞳薬(Mydriatic agent)および毛様体筋麻痺薬(Cycloplegic agent)であるAtropineの投与が併用されることが一般的です。角膜およびブドウ膜の炎症(Corneal/Uveal inflammation)を減退するため、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の全身投与(Systemic administration)が試みられることもありますが、角膜血管新生(Corneal neovascularization)を抑制する可能性を考慮して、その実施には賛否両論があります。
内科療法に不応性(Refractory)を示したり、潰瘍病変が角膜実質の三分の一の深さに達している症例に対しては、外科的療法による治癒促進が応用される場合もあります。細菌性角膜炎の外科的治療では、結膜フラップ(Conjunctival flap)によって潰瘍部位を覆う手法が有効で、病変のサイズと位置に応じて、茎状結膜フラップ(Pedicle conjunctival flap)、橋状結膜フラップ(Bridge conjunctival flap)、フード状結膜フラップ(Hood conjunctival flap)などの術式が用いられます。また、極めて深度に及ぶ潰瘍病巣に対しては、角膜結膜転移術(Corneoconjunctival transposition)や羊膜移植術(Amniotic membrane transplantation)が試みられる場合もあります。
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