馬の病気:真菌性角膜炎
馬の眼科病 - 2015年09月05日 (土)

真菌性角膜炎(Fungal keratitis)について。
創傷性の角膜潰瘍(Traumatic corneal ulcer)の病変部位に真菌感染(Fungal infection)を生じる疾患です(真菌が潰瘍の直接的原因となる事はないため)。真菌性角膜炎の原因菌としては、Aspergillus属菌およびFusarium属菌が最も頻繁に分離されますが、Cylindrocarpon菌、Phycomycetes菌、Peniccilium菌、Paecilomyces菌、Candida菌、Mucor菌、Alternaria菌などによる病態も報告されています。
真菌性角膜炎の病歴としては、抗生物質療法(Anti-microbial therapy)の実施にも関わらず、治癒遅延(Delayed healing)を示す慢性創傷性角膜炎(Chronic traumatic keratitis)を呈することが一般的で、眼瞼痙攣(Blepharospasm)、流涙(Epiphora)、結膜充血(Hyperemic conjunctiva)、羞明(Photophobia)などの症状が見られます。しかし、真菌性角膜炎の臨床症状は必ずしも一定ではなく、多巣性浅部混濁(Multifocal superficial opacities)を呈して、流涙症状を示す軽度慢性角膜疾患(Mild chronic corneal disease)として認められる病態もあります。
真菌性角膜炎の診断は、蛍光染色(Fluorescein stain)が認められる潰瘍病変部位における角膜擦過検体(Corneal scraping sample)の鏡検によって真菌糸(Fungal hyphae)を発見することで下されますが、真菌は深部実質偏向(Predilection for deeper stroma)を示すことが多いため、正確な診断のためには角膜の全層生検(Full-thickness corneal biopsy)を介しての真菌培養(Fungal culture)を要することもあります。この深部実質偏向を考慮して、潰瘍部位の擦過検体において真菌糸が認められたものの、角膜生検による真菌培養は陰性であった症例においては、発見された真菌は角膜炎の病因ではなく、共生菌(Commensal organism)もしくは偶発性表層混入(Incidental surface contamination)である可能性を示唆する必要があります。
真菌性角膜炎の治療では、細菌性角膜炎と同様に、患馬にストレスを掛けることなく、4~8時間おきの頻繁な局所性投与(Topical administration)を確実かつ簡易に実施するため、眼瞼下洗浄システム(Subpalpebral lavage system)を介しての治療が必要とされます。馬の真菌性角膜炎の治療における抗真菌剤としては、通常はFluconazoleの局所投与(Topical administration)が行われますが、ItraconazoleとDMSOの混合塗布剤が用いられる場合もあります。
真菌性角膜炎の治療に際しては、多くの症例において、CiprofloxacinやOfloxacin等の抗生物質投与による二次性細菌感染(Secondary bacterial infection)の治療が施されます。また、散瞳薬(Mydriatic agent)および毛様体筋麻痺薬(Cycloplegic agent)であるAtropineの投与を介して、持続性の角膜刺激(Persistent corneal irritation)に続発する還流性ブドウ膜炎(Reflux uveitis)の予防が試みられる事が一般的です。角膜およびブドウ膜の炎症(Corneal/Uveal inflammation)の改善を目的とした非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の全身投与(Systemic administration)は、角膜血管新生(Corneal neovascularization)を抑制する危険があるため、その実施には賛否両論があります。
内科療法に不応性(Refractory)を示したり、潰瘍病変が角膜実質の三分の一の深さに達している真菌性角膜炎の治療では、細菌性角膜炎と同様に、外科的療法による治癒促進が応用される場合もあります。この際には、病変のサイズと位置に応じて、茎状結膜フラップ(Pedicle conjunctival flap)、橋状結膜フラップ(Bridge conjunctival flap)、フード状結膜フラップ(Hood conjunctival flap)、角膜結膜転移術(Corneoconjunctival transposition)(=深度に及ぶ潰瘍病巣に対して)などの術式が用いられます。
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