馬の病気:狼歯
馬の歯科病 - 2015年09月08日 (火)

狼歯(Wolf tooth)について。
狼歯は上顎の第一前臼歯(First upper premolar tooth: 105 or 205)を指し、40~80%の馬が少なくとも一つの狼歯を持つことが知られており、通常は両側性(Bilateral)に見られます。狼歯は6~18ヶ月齢の子馬~若齢馬に好発し、第二前臼歯すぐ吻側(Just rostral to the second premolar tooth)に萌出(Eruption)することが一般的ですが、第二前臼歯の頬側(Buccal side of the second premolar tooth)や、第二前臼歯より1インチ以上も吻側に現れる症例もあります。
狼歯の存在自体が、口腔の疼痛や不快感(Oral pain/discomfort)の原因になるかに否かに関しては賛否両論があり、狼歯が直接的にハミ受け(Bitting)を阻害する可能性は低いと考えられ、多くの狼歯は弊害を起こさず自然に抜け落ちる、という提唱もなされています。しかし、狼歯がある場合には第二前臼歯の吻側角(Rostral corner)を的確に鑢掛け(Floating)することが難しく、また、変位したり緩んだりした狼歯(Displaced/Loosened wolf tooth)は、ヘッドシェイキングの原因となったり、ハミで口角が上部に引っ張られた際に、狼歯の尖端が頬側粘膜を傷付けたり、狼歯とハミのあいだに頬壁が挟まってしまうことで、ハミ受けに弊害をもたらす症例もあります。
狼歯が認められた患馬においては、定期的な鑢掛けで突出部を削り落とすことで、自然な脱落を促す手法が取られることもあります。しかし、多くの症例においては、上述のような狼歯による問題が生じる可能性があること、狼歯が無くなることで摂食に弊害は起きないこと、等を考慮して、狼歯が見つかり次第すぐに抜歯(Tooth extraction)が選択されることが一般的です。
狼歯の抜歯は、全身麻酔下(Under general anesthesia)もしくは鎮静剤(Sedation)と歯肉下局所麻酔(Subgingival local anesthesia)を用いた起立位手術(Standing surgery)で実施され、様々な種類の歯周エレベーター(Periodontal elevator)を用いて、歯窩底(Bottom of dental socket)での歯根(Tooth root)と歯槽(Alveolus)の結合部を剥離させることで、狼歯の抜歯が行われます。この際に、折れた歯根の破片が歯窩底に遺残してしまった場合には、ロンジュールを用いて摘出することが重要ですが、破片のサイズが小さく歯槽深部に埋没している場合には、そのままにしておいても術後合併症(Post-operative complication)にはつながらない事が示唆されています。
萌出せずに歯肉に覆われている第一前臼歯は、一般に盲狼歯(Blind wolf tooth)と呼ばれ、第二前臼歯の吻側の歯肉下に触知されることもありますが、その存在や位置が不明瞭な場合には、口腔レントゲン検査(Oral radiography)による確定診断(Definitive diagnosis)を要する症例もあります。盲狼歯の抜歯に際しては、盲狼歯の先端を覆っている歯肉を切開してから、上述にある狼歯の場合と同様に、歯周エレベーターとロンジュールを用いて抜歯が行われます。
下顎の第一前臼歯(First lower premolar tooth: 305 or 405)は、上顎よりも発症率が低く、サイズも小さい場合が殆どです。しかし、下顎の狼歯は上顎よりもハミ受けへの弊害を起こし易いと考えられている事から、見つかり次第、速やかに抜歯が行われることが一般的です。上顎と同様に、歯肉に覆われている盲狼歯の症例では、口腔レントゲン検査が必要となります。下顎の狼歯の抜歯は、上述の上顎の場合と同様に実施されますが、下顎に生じた開歯窩(Open dental socket)には摂食物が溜まったり詰まったりする危険が高いことから、抜歯後には歯窩を歯科ゲルで充填(Dental gel packing)する手法が応用される場合もあります。
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
- 関連記事
-
-
馬の病気:正中離開
-
馬の病気:歯根尖部感染
-
馬の病気:狼歯
-
馬の病気:下顎短小症
-
馬の病気:顎関節炎
-