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馬の病気:脱落歯遺残

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脱落歯遺残(Retained deciduous tooth)(いわゆる“Caps”)について。

馬は脱落歯(Deciduous teeth)には、第一~第三切歯脱落歯(First to third incisor deciduous teeth: 501-503, 601-603, 701-703, 801-803)、および第二~第四前臼歯脱落歯(Second to fourth premolar deciduous teeth: 506-508, 606-608, 706-708, 806-808)の、合計24本の脱落歯があります。これらの脱落歯が抜け落ちて永久歯(Permanent teeth)に生え変わる時期は、品種差や個体差があるものの、第一切歯(101, 201, 301, 401)では二歳半、第二切歯では三歳半(102, 202, 302, 402)、第三切歯(103, 203, 303, 403)では四歳半、第二前臼歯(106, 206, 306, 406)では二歳、第三前臼歯(107, 207, 307, 407)では三歳、第四前臼歯(108, 208, 308, 408)では四歳、であることが知られています。

脱落歯遺残は、二歳~四歳馬において、脱落歯が抜け落ちる時期が遅延していたり、抜けた脱落歯の破片が歯肉内に残存している病態を指し、下顎の第三前臼歯脱落歯(Lower third premolar deciduous teeth: 707, 807)、および、第四前臼歯脱落歯(Lower fourth premolar deciduous teeth: 708, 808)に好発することが報告されています。これらの遺残した脱落歯では、歯肉炎(Gingivitis)や歯周感染(Periodontal infection)を起こす危険があり、咀嚼不全(Inadequate mastication)、食欲不振(Anorexia)、咬合異常(Malocclusion)を続発して、体重減少(Weight loss)、プアパフォーマンス、ハミ受けの異常などを示す個体もあります。また稀に、脱落歯遺残に起因して、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate)に至る症例もあることが示唆されています。

前臼歯の脱落歯遺残では、上述のような臨床症状に加えて、前臼歯永久歯(Premolar permanent teeth: 106-108, 206-208, 306-308, 406-408)が舌側変位(Lingual displacement of permanent teeth)することに起因して、上顎骨や下顎骨腹側枝の骨性肥大(Bony enlargement on maxilla or ventral mandibular ramus)が見られる場合もあります。また、切歯の脱落歯遺残では、食餌中に頭部を激しく上下させる仕草(Head tossing)や、切歯を壁や飼桶に擦り付ける動作(Rubbing incisors on wall/bucket)を示す症例もあります。脱落歯遺残の診断は、視診と触診で下されることが一般的ですが、口腔レントゲン検査(Oral radiography)が応用される場合もあります。

脱落歯が遺残していると判断して抜歯を行うタイミングは、必ずしも明瞭でない症例もありますが、脱落歯が抜け落ちる年齢には個体差があるため、上述のような脱落時期を過ぎているという理由のみで抜歯してしまうことは適当でないという警鐘が鳴らされています。一般的には、脱落歯が抜け落ちるタイミングが正常よりも遅延していて、かつ、咬合異常、歯肉炎、患部の圧痛などの併発が確認された症例において、脱落歯の抜歯が選択されます。また、触診によって脱落歯が緩んでいるのが確認されたり、歯肉との接触部位が無くなっている脱落歯においても、速やかな抜歯が適応されます。

馬においては、永久歯が萌出(Eruption)する時期は個体差があるものの、萌出する順序はどの馬でも殆ど同じであることが知られています。正常な萌出順序は、切歯では、(1)第一切歯 →(2)第二切歯 →(3)第三切歯、の順で、前臼歯&臼歯では、(1)第一後臼歯 →(2)第二後臼歯 →(3)第二前臼歯 →(4)第三前臼歯 →(5)第三後臼歯 →(6)第四前臼歯、の順であることが知られています。このため、例えば第三後臼歯(Third molar teeth: 111, 211, 311, 411)が既に萌出しているにも関わらず、第二・第三前臼歯の脱落歯(506, 507, 606, 607, 706, 707, 806, 807)が抜け落ちていない個体では、これらの脱落歯が遺残していると判断して抜歯が行われます。

遺残を起こした脱落歯の抜歯には、キャップ鉗子(Cap forceps)(先端がOpenとClosedの両タイプ)、前臼歯抽出具(Premolar extractor)、レイノルズ前臼歯鉗子(Reynolds premolar forceps)などが用いられ、第四前臼歯の脱落歯では特に大型の抜歯器具を要することが一般的です。抜歯に際しては、脱落歯を器具や鉗子の先端で堅固に保持した後、舌側方向(口腔の内側方向)へ捻るようにして抜歯を試みることが重要で、抜歯器具の持ち手を上下方向(背腹側方向)に操作すると脱落歯が折れる危険があります。このため、脱落歯の抜歯後には、必ず歯窩(Dental socket)の周辺部を慎重に視診して、破片が歯肉内に残っていないかを確認することが大切です。

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