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馬の病気:鼻外湾曲症

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鼻外湾曲症(Campylorrhinus lateralis)について。

上顎骨(Maxilla)、前顎骨(Premaxilla)、鼻中隔(Nasal septum)の外側偏位(Lateral deviation)を生じる疾患で、俗名では「鼻曲がり」(“Wry nose”)と呼ばれ、アラビアンやミニチュアホース等の品種に好発します。鼻外湾曲症の病因には、遺伝的素因(Genetic predisposition)が関与していると考えられ、この病態の罹患馬は、口蓋裂(Cleft palate, palatoshisis)、臍帯ヘルニア(Umbilical hernia)、腱拘縮症候群(Contracted tendon syndrome)などの先天性異常(Congenital anomalies)を併発する場合が多いことが知られています。

鼻外湾曲症の症状としては、新生児の段階では授乳困難(Difficulty in sucking)を示す場合もありますが、軽度の湾曲を呈する症例では数ヶ月齢になって初めて、呼吸困難(Dyspnea)や咀嚼不全(Difficulty in mastication)の症状が顕著に認められるようになる事もあります。鼻外湾曲症では、切歯の咬合不全(Incisor malocclusion)のみならず、顎可動域の制限(Limited jaw excursion)に起因して、前臼歯や後臼歯の横方向への正常運動が妨げられ、咀嚼異常や剪状歯(Shear mouth)などの病態を併発することが示されています。

鼻外湾曲症の診断では、歯科検査(Dental examination)に併せて、外科治療の方針決定や正確な予後判定のため、上述のような先天性疾患や誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia)の除外診断が行われます。また、頭部のレントゲン検査(Head radiography)やCTスキャンによって、上顎骨、前顎骨、鼻中隔の偏位の度合いおよび範囲を確認する事も重要です。

鼻外湾曲症の治療では、顎矯正手術(Orthognathic surgical correction)によって、上顎骨と前顎骨を真っ直ぐに整列させてから、鼻骨整列化(Nasal bone realignment)と鼻中隔の切除(Nasal septum resection)による気道確保が行われます。一般的に顎矯正手術は、五ヶ月~七ヶ月齢の時期に実施することが推奨されていますが、成馬における治癒成功例も報告されています。顎矯正手術では、(1)上顎骨と前顎骨の整列、および、鼻骨整列と鼻中隔切除を二回の手術に分けて行う術式、(2)両手順を一回の手術で行う術式、(3)仮骨延長術(Distraction osteogenesis)の手技を用いて徐々に骨整列化を達成する術式、などが報告されています。いずれの術式においても、術後には呼吸困難の改善のため気管切開術(Tracheostomy)の併用を要します。

顎矯正手術のうち(1)の術式では、骨切り術(Osteotomy)によって、上顎骨、前顎骨、鼻骨を頭部軸に平行になるように整列させ、上下切歯同士が正確に咬合する位置において、上顎骨と前顎骨をステインマンピンで固定整復します。上顎骨と前顎骨の矯正後には、三ヵ月の治癒期間を置いてから、二度目の手術によって、鼻骨整列化と吻側鼻中隔(Rostral nasal septum)の切除を施す術式が示されており、この手法では、鼻中隔を残すことで鼻骨圧潰(Nasal bone collapse)を予防したり、上顎骨および前顎骨の安定性を維持して良好な骨癒合を促す効果が期待できます。(2)の矯正手術では、上述のような骨切り術による上顎骨&前顎骨の整列化を行った後、吻側から頭側までほぼ全域の鼻中隔を切除し、ワイヤー固定またはプレート固定によって鼻骨の圧潰を予防する術式が用いられます。

一方、(3)の矯正手術を用いた症例報告では、骨切り術を行った後、上顎骨、前顎骨、鼻骨を完全に真っ直ぐに矯正することなく、片側創外固定器具(Monolateral distraction external skeletal fixator)の設置が行われました。術後には、7日間の待機期間(Latency period)および器具の再調整手術を行った後、55日間の骨延長期間(Distraction period)(毎日1mmの骨切部の開帳)によって合計55mmの骨延長を達成し、その後は40日間の骨硬化期間(Consolidation period)を置いてから創外固定器具の除去が行われました。仮骨延長術を応用した矯正法では、高価な器具と長期間の入院を要し、また、装着された創外固定器具によって母馬を傷付ける恐れがあるため子馬の症例には推奨されていません、しかし、骨組織の治癒がそれほど活発でない成馬の症例においては、数ヶ月間にわたって徐々に上顎骨および鼻骨を延長させることが出来るため、骨切り術部位の癒合不全(Nonunion)や偽関節形成(Pseudoarthrosis)を予防でき、美容的外観(Cosmetic appearance)も向上できるという利点があります。

鼻外湾曲症の罹患馬において、外科的矯正法が行われなかった場合には、生涯にわたって咀嚼不全、呼吸困難、切歯や臼歯の異常磨耗を呈することが知られており、多くの症例では、呼吸困難を改善するため、永続性気管切開術(Permanent tracheostomy)が必要となります。上述のような顎矯正手術が実施された場合には、予後は比較的良好で、呼吸困難などの症状を示すことなく競走や競技への使役が可能であることが報告されていますが、外湾曲病態の重篤度によっては、術後の異常呼吸器雑音(Abnormal respiratory noise)の解消のため翼状襞(Alar fold)の外科的切除を要する症例もあります。

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