馬の病気:顎関節炎
馬の歯科病 - 2015年09月09日 (水)

顎関節炎(Temporomandibular arthritis)について。
顎関節は、下顎骨の顆状突起(Condylar process of mandible)と側頭骨の関節結節(Articular tubercle of temporal bone)のあいだに形成され、線維軟骨円盤(Fibrocartilaginous disc)によって背側区画(Dorsal compartment)と腹側区画(Ventral compartment)に分けられています。顎関節の関節面は、背内側から腹外側方向へ約15°の傾斜を成し、この角度が上下臼歯の咬合面のあいだの傾斜角度と一致することで、臼歯による飼料の良好な咀嚼が行えるようになっています。
顎関節に起こる感染性および非感染性炎症(Septic/Nonseptic inflammation)では、嚥下障害(Dysphagia)、咀嚼する際に摂食物を口から落とす動作(いわゆるQuidding)、食欲減退(Inappetence)、慢性体重減少(Chronic weight loss)、切歯不正咬合(Incisor malocclusion)などが認められ、病態の重篤度によっては、下顎可動域の変化(Altered mandible excursion)、顎関節周辺における腫脹や熱感(Swelling/Heat on temporomandibular joint)の触知、側頭部筋郡の非対称性(Muscle asymmetry)などが確認されることもあります。また、抑鬱(Depression)、ヘッドシェイキング、頭部位置の変化(Altered head carriage)、ハミ付けや鞍付けを拒絶する(Refusing bitting/saddling)、などの行動的変化を示す症例もあります。
顎関節炎の診断では、上述のような臨床症状は一般的に非特異性(Nonspecific clinical signs)であるため、類似症状を示す他の歯科疾患、胃・食道疾患、神経器疾患、等の除外診断に努めます。また、関節穿刺(Arthrocentesis)を介しての滑液性状検査(Synovial fluid analysis)によって、白血球数増加、蛋白濃度上昇、好中球比率の増加などを確認したり、滑液採取後に2~4mLの局所麻酔薬による顎関節麻酔(Temporomandibular joint block)を行って、症状の変化を観察する手法も有効です。
顎関節炎の診断における頭部レントゲン検査(Head radiography)は、多くの骨陰影が重複(Bony superimposition)する部位であるためその有用性は低いものの、スカイライン撮影像(上記写真)や斜位撮影像によって、関節腔の狭窄化(Narrowing joint space)や外骨腫(Exostosis)などの評価が試みられる場合もあります。超音波検査(Ultrasonography)では、外側部位の関節腔&関節面のみの評価しか行えませんが、関節面の不規則性(Irregular joint surface)、関節腔の狭窄化、関節包の肥厚化(Thickening of joint capsule)などが示される症例もあります。CTスキャンは、高価な設備と全身麻酔(General anesthesia)を要するものの、関節全域の病変を正確に検査するために最も有用な手法であることが報告されています。
顎関節炎の治療では、関節鏡手術(Arthroscopy)を用いての病巣清掃(Debridement)、関節洗浄(Joint lavage)、抗生物質および抗炎症剤の注入(Antibiotic/Anti-inflammatory drug infusion)などが行われます。重度の関節軟骨の変性(Severe articular cartilage degeneration)や関節強直(Ankylosis)が認められた症例では、救助療法(Salvage procedure)として下顎骨の顆状突起切除術(Mandibular condylectomy)が選択される場合もあり、術後には骨切除術の断端(Ostectomy edge)に偽性顆状突起(Pseudocondyle)の再生が起こり、比較的良好な咀嚼運動の回帰が見られることが報告されています。
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
- 関連記事
-
-
馬の病気:正中離開
-
馬の病気:下顎短小症
-
馬の病気:顎関節炎
-
馬の病気:狼歯
-
馬の病気:鼻外湾曲症
-