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馬の病気:歯根尖部感染

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歯根尖部感染(Periapical infection)について。

臼歯(Cheek teeth)の歯根尖部に細菌感染(Bacterial infection)を起こす疾患です。馬における歯根尖部感染の病因としては、血行性細菌浸潤(Hematogenous bacterial infiltration)、歯骨折(Dental fracture)、正中離開(Diastemata)、二次性象牙質(Secondary dentine)の形成不十分による歯髄露出(Dental pulp exposure)、などが挙げられています。

歯根尖部感染の症状としては、咀嚼不全(Inadequate mastication)、食欲不振(Anorexia)、咀嚼時に摂食物を口から落とす動作(いわゆるQuidding)、慢性体重減少(Chronic weight loss)などが認められ、プアパフォーマンスやハミ付けの拒否などを示す症例もあります。また、下顎臼歯(Mandibular cheek teeth)の歯根尖部感染では、片側性の腹側下顎腫脹(Unilateral ventral mandibular swelling)、および排液孔形成(Draining tract formation)が見られ、上顎前臼歯(Upper premolar teeth: 106-108, 206-208)の歯根尖部感染では、吻側上顎(Rostral maxilla)の限局性腫脹(Focal swelling)が認められます。一方、上顎後臼歯(Upper molar teeth: 109-111, 209-211)の歯根尖部感染では、第一後臼歯(First molar teeth: 109, 209)の歯根が上顎副鼻腔の吻側区画(Rostral compartment of maxillary sinus)に位置し、第二・第三後臼歯(Second and Third molar teeth: 110, 210, 111, 211)の歯根が上顎副鼻腔の尾側区画(Caudal compartment of maxillary sinus)に位置していることから、歯根尖部の細菌感染から二次性上顎副鼻腔炎(Secondary maxillary sinusitis)を続発して、悪臭性の慢性片側性鼻汁排出(Malodorous, chronic, unilateral nasal discharge)を示すことが一般的です。

歯根尖部感染の診断では、顕著な上顎および下顎の腫脹や、排液孔形成が見られない症例では、口腔全域の歯科検査(Dental examination)によって、類似症状を示す他の歯科病を除外診断することが重要です。頭部レントゲン検査(Head radiography)は、歯根尖部感染の推定診断(Presumptive diagnosis)のために有用で、排液孔形成が認められた症例では、探索子(Probe)を挿入した状態でのレントゲン撮影を行って、排液孔の深度や、排液孔が歯根組織と連絡しているかを確かめる事が重要です。しかし、若齢馬における初期病態の歯根尖部感染では、臼歯の萌出(Eruption)の際に見られる正常な歯根尖部や歯槽の脱ミネラル化(Demineralization of apices/alveoli)のレントゲン所見と、細菌感染病巣に起因する放射性透過域(Radiolucent area)の区別が困難な場合もあります。急性期の歯根尖部感染のレントゲン像では、第二前臼歯(Second premolar tooth: PM2)の歯根尖部周辺における歯組織辺縁の像のぼやけ(Periapical halo)と、その周囲を取り囲む骨硬化部位(Sclerotic margin)が認められます。慢性期の歯根尖部感染のレントゲン像では、第一後臼歯(First molar tooth: M1)の歯根尖部周辺における石灰沈着(Periapical mineralization)と、その周囲でのセメント質断片形成(Cement fragmentation)が見られます。

歯根尖部感染の治療では、初期病態では全身性抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)によって良好な回復が示される症例もありますが、保存性療法(Conservative treatment)に不応性(Refractory)であったり、病巣が広範囲に及ぶ場合には、抜歯(Teeth extraction)が必要となります。しかし、歯科病は致死性の高い病態ではないため、歯根尖部感染であるという確定診断(Definitive diagnosis)が下された場合にのみ、罹患臼歯の抜歯を選択するべきであるという警鐘が鳴らされています。馬の前臼歯および後臼歯の抜歯法としては、口腔側から罹患歯を引き抜く手法(=Teeth extraction)と、円鋸術(Trephination)や上顎骨フラップ(Maxillary bone flap)を介して、歯根側から罹患歯を叩き出す手法(=Teeth repulsion)が用いられています。

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