馬の文献:食道閉塞(Feige et al. 2000)
文献 - 2015年09月11日 (金)
「馬の食道閉塞:34症例の回顧的調査」
Feige K, Schwarzwald C, Fürst A, Kaser-Hotz B. Esophageal obstruction in horses: a retrospective study of 34 cases. Can Vet J. 2000; 41(3): 207-210.
この症例論文では、馬の食道閉塞(Esophageal obstruction)の原因、合併症、そしてその予後を評価するため、1993~1998年における34頭の食道閉塞の罹患馬の医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、34頭の食道閉塞の罹患馬のうち、全身麻酔下(Under general anesthesia)での外科的療法を要したのは二頭のみで、他の32頭では、胃カテーテルを介しての食道洗浄(Esophageal lavage by stomach tube)によって閉塞部位の遊離が達成され、このうち、28頭では一回の食道洗浄のみによる治療が奏功しました。また、34頭の食道閉塞の罹患馬のうち、術後経過の悪化から安楽死(Euthanasia)となったのは四頭のみで、短期生存率(Short-term survival rate)は88%(30/34頭)であったことが報告されています。このため、馬の食道閉塞では、殆どの症例において、非外科的処置を介しての保存性療法(Conservative treatment)によって、閉塞部位の遊離&整復が可能であることが示唆され、その後の予後は良好である場合が多いというデータが示されました。
この研究では、34頭の食道閉塞の罹患馬のうち、26頭において気管(Trachea)の内視鏡検査(Endoscopy)が実施されましたが、症状経過の長さ(症状発現から内視鏡検査実施までの時間的長さ)と気管の汚染度合い(Degree of tracheal contamination)のあいだには、有意な相関は認められず、また、気管の汚染度合いとその後の誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia)の発症率にも有意な相関は見られませんでした。つまり、例え経過の短い症例であっても、多量の飼料の誤嚥を起こしている可能性は否定できず、また、内視鏡検査において気管汚染が軽度であると判断された場合でも、必ずしも誤嚥性肺炎を起こす危険が低いとは限らないことが示唆されました。このため、食道閉塞の罹患馬においては、その経過や重篤度に関わらず、全ての症例に対して、胃カテーテルの留置(Indwelling stomach tube)および予防的抗生物質療法(Prophylactic antibiotic therapy)などを介して、積極的な誤嚥性肺炎の予防処置を講じることが重要であると考えられました。
この研究では、食道閉塞の罹患馬の臨床症状としては、飼料片の混じった鼻汁排出(Nasal discharge containing ingesta)、咳嗽(Coughing)、飲み込んだ飼料や水が押し戻される様子(“Gulping”)、過剰な流涎(Excessive salivation)などが認められました。このうち、飼料片の混じった鼻汁排出は74%(25/34頭)の患馬に見られたことから、食道閉塞において比較的に特徴的な臨床所見(Pathognomonic clinical sign)であると考えられ、馬の食道閉塞の推定診断(Presumptive diagnosis)の指標になりうるという考察がなされています。
この研究では、34頭の食道閉塞の罹患馬のうち、食道の形態的異常(Morphological abnormalities)が原因となったのは六頭のみで(四頭では巨大食道[Megaesophagus]、一頭では食道狭窄[Esophageal stricture]、一頭では食道憩室[Esophageal diverticulum])、他の28頭においては、食道そのものには異常は認められませんでした。しかし、34頭のうち安楽死となった四頭を見ると、そのいずれにおいても、上述のような食道の形態的異常が認められました。このため、馬の食道閉塞では、食道そのものの異常に起因する二次性病態(Secondary disorder)は稀で、咀嚼不全(Poor mastication)、乾燥した飼料(Dry feeding)、過食(Overeating)、異物(Foreign body)などが原因となる一次性病態(Primary disorder)が多いことが示されましたが、食道の形態的異常が原因となった症例においては、予後不良から安楽死となる可能性が高いことが示唆されました。
一般的に馬の食道閉塞では、臨床所見と内視鏡検査によって診断が下され、頚部および胸部レントゲン検査(Cervical/Thoracic radiography)を要する症例は少ないことが知られています。この研究においても、同様な傾向が示されましたが、その一方で、回帰性食道閉塞(Recurrent esophageal obstruction)の病歴を示した五頭のうち四頭においては、食道の形態的および機能的異常が認められ、単発の食道閉塞の病歴を示した他の29頭に比較してその割合が有意に高かったことが報告されています。このため、複数回の食道閉塞の病歴を持つ患馬の診療に際しては、造影レントゲン検査(Contrast radiography)等を介して、食道の機能異常(Functional disorder)の評価を積極的に行うべきであることが推奨されています。
この研究では、34頭の食道閉塞の罹患馬のうち八頭において、胸部レントゲン検査によって誤嚥性肺炎の発症が確認され、この八頭の患馬の症状経過(中央値:18時間)は、他の26頭の患馬の症状経過(中央値:4時間)よりも、有意に長かったことが報告されています。このため、馬の食道閉塞では、誤嚥性肺炎の合併症を起こす割合が高いことを考慮して、特に初診時における臨床症状の経過が長い馬に対しては、内視鏡検査による気管汚染の重篤度に関わらず、積極的なレントゲン検査を介して、肺炎の早期発見に努めることが重要であると考察されています。
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結果としては、34頭の食道閉塞の罹患馬のうち、全身麻酔下(Under general anesthesia)での外科的療法を要したのは二頭のみで、他の32頭では、胃カテーテルを介しての食道洗浄(Esophageal lavage by stomach tube)によって閉塞部位の遊離が達成され、このうち、28頭では一回の食道洗浄のみによる治療が奏功しました。また、34頭の食道閉塞の罹患馬のうち、術後経過の悪化から安楽死(Euthanasia)となったのは四頭のみで、短期生存率(Short-term survival rate)は88%(30/34頭)であったことが報告されています。このため、馬の食道閉塞では、殆どの症例において、非外科的処置を介しての保存性療法(Conservative treatment)によって、閉塞部位の遊離&整復が可能であることが示唆され、その後の予後は良好である場合が多いというデータが示されました。
この研究では、34頭の食道閉塞の罹患馬のうち、26頭において気管(Trachea)の内視鏡検査(Endoscopy)が実施されましたが、症状経過の長さ(症状発現から内視鏡検査実施までの時間的長さ)と気管の汚染度合い(Degree of tracheal contamination)のあいだには、有意な相関は認められず、また、気管の汚染度合いとその後の誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia)の発症率にも有意な相関は見られませんでした。つまり、例え経過の短い症例であっても、多量の飼料の誤嚥を起こしている可能性は否定できず、また、内視鏡検査において気管汚染が軽度であると判断された場合でも、必ずしも誤嚥性肺炎を起こす危険が低いとは限らないことが示唆されました。このため、食道閉塞の罹患馬においては、その経過や重篤度に関わらず、全ての症例に対して、胃カテーテルの留置(Indwelling stomach tube)および予防的抗生物質療法(Prophylactic antibiotic therapy)などを介して、積極的な誤嚥性肺炎の予防処置を講じることが重要であると考えられました。
この研究では、食道閉塞の罹患馬の臨床症状としては、飼料片の混じった鼻汁排出(Nasal discharge containing ingesta)、咳嗽(Coughing)、飲み込んだ飼料や水が押し戻される様子(“Gulping”)、過剰な流涎(Excessive salivation)などが認められました。このうち、飼料片の混じった鼻汁排出は74%(25/34頭)の患馬に見られたことから、食道閉塞において比較的に特徴的な臨床所見(Pathognomonic clinical sign)であると考えられ、馬の食道閉塞の推定診断(Presumptive diagnosis)の指標になりうるという考察がなされています。
この研究では、34頭の食道閉塞の罹患馬のうち、食道の形態的異常(Morphological abnormalities)が原因となったのは六頭のみで(四頭では巨大食道[Megaesophagus]、一頭では食道狭窄[Esophageal stricture]、一頭では食道憩室[Esophageal diverticulum])、他の28頭においては、食道そのものには異常は認められませんでした。しかし、34頭のうち安楽死となった四頭を見ると、そのいずれにおいても、上述のような食道の形態的異常が認められました。このため、馬の食道閉塞では、食道そのものの異常に起因する二次性病態(Secondary disorder)は稀で、咀嚼不全(Poor mastication)、乾燥した飼料(Dry feeding)、過食(Overeating)、異物(Foreign body)などが原因となる一次性病態(Primary disorder)が多いことが示されましたが、食道の形態的異常が原因となった症例においては、予後不良から安楽死となる可能性が高いことが示唆されました。
一般的に馬の食道閉塞では、臨床所見と内視鏡検査によって診断が下され、頚部および胸部レントゲン検査(Cervical/Thoracic radiography)を要する症例は少ないことが知られています。この研究においても、同様な傾向が示されましたが、その一方で、回帰性食道閉塞(Recurrent esophageal obstruction)の病歴を示した五頭のうち四頭においては、食道の形態的および機能的異常が認められ、単発の食道閉塞の病歴を示した他の29頭に比較してその割合が有意に高かったことが報告されています。このため、複数回の食道閉塞の病歴を持つ患馬の診療に際しては、造影レントゲン検査(Contrast radiography)等を介して、食道の機能異常(Functional disorder)の評価を積極的に行うべきであることが推奨されています。
この研究では、34頭の食道閉塞の罹患馬のうち八頭において、胸部レントゲン検査によって誤嚥性肺炎の発症が確認され、この八頭の患馬の症状経過(中央値:18時間)は、他の26頭の患馬の症状経過(中央値:4時間)よりも、有意に長かったことが報告されています。このため、馬の食道閉塞では、誤嚥性肺炎の合併症を起こす割合が高いことを考慮して、特に初診時における臨床症状の経過が長い馬に対しては、内視鏡検査による気管汚染の重篤度に関わらず、積極的なレントゲン検査を介して、肺炎の早期発見に努めることが重要であると考察されています。
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