馬の文献:胃潰瘍(Sandin et al. 2000)
文献 - 2015年09月14日 (月)

「一歳齢以上のスウェーデンホースにおける胃潰瘍の剖検結果:1924~1996年の3715症例の回顧的調査」
Sandin A, Skidell J, Häggström J, Nilsson G. Postmortem findings of gastric ulcers in Swedish horses older than age one year: a retrospective study of 3715 horses (1924-1996). Equine Vet J. 2000; 32(1): 36-42.
この症例論文では、馬の胃潰瘍(Gastric ulceration)の有病率(Prevalence)と、その発症に関与する因子を発見するため、1924~1996年において剖検が実施された3715頭のスウェーデンホースの医療記録の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、3715頭のスウェーデンホースのうち、胃潰瘍の診断が下されたのは383頭(10.3%)、胃炎(Gastritis)の診断が下されたのは250頭(6.7%)で、両疾患を合わせた馬胃潰瘍症候群(Equine gastric ulcer syndrome)の意味での有病率は17%であったことが報告されています。しかし、剖検で胃潰瘍が確認された患馬のうち、生前に疝痛症状(Colic sign)を示していたのは半数以下(49%)であったことから、胃潰瘍は馬において比較的に有病率の高い疾患であるものの、見かけ上の異常は顕著ではなく、不症候性に進行(Asymptomatic progression)している病態もかなり多いことが示唆されました。このため、慢性の食欲不振(Chronic anorexia)や体重減少(Weight loss)、プアパフォーマンスなどの、原因不明の全身症状を呈した症例においては、胃潰瘍を鑑別診断に加える必要があると考察されています。
この研究では、品種別の胃潰瘍の有病率を見ると、サラブレッド(有病率:18.7%)およびスタンダードブレッド(有病率:18.5%)において、他の品種よりも有意に胃潰瘍が好発しやすい傾向が認められました。また、種牡馬における有病率(17.5%)は、牝馬(11.8%)や去勢馬(9.8%)よりも有意に高い結果が示されました。一方、年代別の胃潰瘍の有病率を見ると、1945年以前では5.6%であった有病率が、1945~1975年では14.6%、1975年以降では17.6%というように、年代が上がるにつれて胃潰瘍の有病率も有意に上昇したことが報告されています。しかし、これらの品種、性別、年代の違いによって、なぜ胃潰瘍を発症する危険が増したのかに関しては、この論文の考察では明確には結論付けられていません。
この研究では、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与が行われていた馬と、行われていなかった馬における、胃潰瘍の有病率の比較が試みられましたが、両群のあいだには有意差は認められませんでした。これは、非ステロイド系抗炎症剤の投与量や投与期間を考慮に入れていないことや、胃潰瘍の発症には飼養環境、給餌法、運動内容などの他の因子が関与するためと考えられており、胃潰瘍発症に関する非ステロイド系抗炎症剤の安全性を示すデータと見なすべきではない、という警鐘が鳴らされています。
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