馬の文献:胃潰瘍(Merritt et al. 2003)
文献 - 2015年09月15日 (火)
「成馬においてガストロガードおよびオメプラゾール経口配合剤が24時間で胃内pHに及ぼす影響」
Merritt AM, Sanchez LC, Burrow JA, Church M, Ludzia S. Effect of GastroGard and three compounded oral omeprazole preparations on 24 h intragastric pH in gastrically cannulated mature horses. Equine Vet J. 2003; 35(7): 691-695.
この研究論文では、市販および配合オメプラゾール製剤による、馬の胃潰瘍(Gastric ulceration)の治療効果を評価するため、カニューレ処置を施した六頭の成馬に対して、ガストロガード(市販のオメプラゾール製剤)および三種類のオメプラゾール経口配合剤(Compounded oral omeprazole preparations)の投与と、24時間にわたる胃内pHの測定が行われました。
結果としては、ガストロガードが投与された馬では、投与後の1~4時間で胃内pHが4.0以上に上昇し、その後、8~12時間にわたって高値が維持されました。一方、三種類の配合剤のうち、懸濁液状のオメプラゾール製剤(Suspension formulations of omeprazole)では同様のpH上昇作用が認められたものの、他の二種類のペースト状オメプラゾール製剤(Paste formulations of omeprazole)では、胃内pHの有意な上昇は認められませんでした。このため、配合されたオメプラゾール製剤は、その組成によっては、必ずしも市販のオメプラゾール製剤ほどの治療効果は期待できないことが示唆されました。また、臨床症例に対してガストロガードが用いられる場合には、調教&運動が実施される4~8時間前にガストロガードの経口投与を済ませておく指針が有効であると提唱されています。
一般的にオメプラゾールは、プロトンポンプ遮断(Proton pump blocker)を介しての胃液分泌の抑制作用(Inhibitory effect of gastric secretion)によって、胃潰瘍の治癒促進および発症予防などの効能が期待されます。この研究では、ガストロガードそのもののpHは10.2、懸濁液状製剤のpHは8.7であったのに対して、有意な効能が示されなかった二種類のペースト状製剤のpHは、ともに6.0以下(5.1および5.7)であったことが報告されています。オメプラゾールは、胃内の酸性環境において薬物分解(Degradation under acidic environment)が生じることが知られており、上述の薬剤のpHが高いほど、胃内環境における良好な緩衝能を呈して、血中への十分な薬物移行と胃内pHの上昇が達成されたものと推測されています。
この研究の限界点としては、胃底部(Gastric fundus)に設置されたセンサーによる胃内pHの測定が行われたため、胃内容物が十分に混ざっていない状態でのpH動態が記録された可能性が挙げられています。また、一般的にオメプラゾールは、空腹時において分泌作用が亢進した細胞に対してより効果的に作用することが知られており、この研究における実験デザイン(=自由摂食されている馬)では、薬剤の作用が最大限に発揮されなかった場合もありうる、という考察がなされています。このため、実際の臨床症例においては、市販のオメプラゾール製剤だけでなく、ペースト状の配合製剤の投与によっても、有意な胃潰瘍の治療および予防効果が示される可能性もあると考えられました。
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Merritt AM, Sanchez LC, Burrow JA, Church M, Ludzia S. Effect of GastroGard and three compounded oral omeprazole preparations on 24 h intragastric pH in gastrically cannulated mature horses. Equine Vet J. 2003; 35(7): 691-695.
この研究論文では、市販および配合オメプラゾール製剤による、馬の胃潰瘍(Gastric ulceration)の治療効果を評価するため、カニューレ処置を施した六頭の成馬に対して、ガストロガード(市販のオメプラゾール製剤)および三種類のオメプラゾール経口配合剤(Compounded oral omeprazole preparations)の投与と、24時間にわたる胃内pHの測定が行われました。
結果としては、ガストロガードが投与された馬では、投与後の1~4時間で胃内pHが4.0以上に上昇し、その後、8~12時間にわたって高値が維持されました。一方、三種類の配合剤のうち、懸濁液状のオメプラゾール製剤(Suspension formulations of omeprazole)では同様のpH上昇作用が認められたものの、他の二種類のペースト状オメプラゾール製剤(Paste formulations of omeprazole)では、胃内pHの有意な上昇は認められませんでした。このため、配合されたオメプラゾール製剤は、その組成によっては、必ずしも市販のオメプラゾール製剤ほどの治療効果は期待できないことが示唆されました。また、臨床症例に対してガストロガードが用いられる場合には、調教&運動が実施される4~8時間前にガストロガードの経口投与を済ませておく指針が有効であると提唱されています。
一般的にオメプラゾールは、プロトンポンプ遮断(Proton pump blocker)を介しての胃液分泌の抑制作用(Inhibitory effect of gastric secretion)によって、胃潰瘍の治癒促進および発症予防などの効能が期待されます。この研究では、ガストロガードそのもののpHは10.2、懸濁液状製剤のpHは8.7であったのに対して、有意な効能が示されなかった二種類のペースト状製剤のpHは、ともに6.0以下(5.1および5.7)であったことが報告されています。オメプラゾールは、胃内の酸性環境において薬物分解(Degradation under acidic environment)が生じることが知られており、上述の薬剤のpHが高いほど、胃内環境における良好な緩衝能を呈して、血中への十分な薬物移行と胃内pHの上昇が達成されたものと推測されています。
この研究の限界点としては、胃底部(Gastric fundus)に設置されたセンサーによる胃内pHの測定が行われたため、胃内容物が十分に混ざっていない状態でのpH動態が記録された可能性が挙げられています。また、一般的にオメプラゾールは、空腹時において分泌作用が亢進した細胞に対してより効果的に作用することが知られており、この研究における実験デザイン(=自由摂食されている馬)では、薬剤の作用が最大限に発揮されなかった場合もありうる、という考察がなされています。このため、実際の臨床症例においては、市販のオメプラゾール製剤だけでなく、ペースト状の配合製剤の投与によっても、有意な胃潰瘍の治療および予防効果が示される可能性もあると考えられました。
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