馬の文献:胃潰瘍(Orsini et al. 2003)
文献 - 2015年09月15日 (火)
「抗潰瘍薬が投与されている競走馬における中程度または重度の胃潰瘍発症の可能性」
Orsini JA, Haddock M, Stine L, Sullivan EK, Rabuffo TS, Smith G. Odds of moderate or severe gastric ulceration in racehorses receiving antiulcer medications. J Am Vet Med Assoc. 2003; 223(3): 336-339.
この症例論文では、抗潰瘍薬(Antiulcer medications)による馬の胃潰瘍(Gastric ulceration)の予防効果を評価するため、スクラルフェイト、H2ブロッカー、配合オメプラゾール(Compounded omeprazole)、市販オメプラゾール(Proprietary omeprazole)の投与が行われている798頭の競走馬における、胃内視鏡検査(Gastroscopy)が実施されました。
結果としては、市販オメプラゾールの投与が行われている馬では、非投与郡の馬に比べて、中程度~重度の胃潰瘍(Moderate or severe gastric ulceration)を発症している可能性が、五分の一以下まで減少することが示されました(オッズ比:0.18)。一方、他の抗潰瘍薬(スクラルフェイト、H2ブロッカー、配合オメプラゾール)の投与が行われている馬では、中程度~重度の胃潰瘍を発症している可能性は、有意には変化しなかったことが示されました。このため、内視鏡所見に基づく効能を考慮した場合には、上述の抗潰瘍薬の中で馬の胃潰瘍予防に有効であるのは、市販オメプラゾールだけであることが示唆されました。しかし、他の抗潰瘍薬の投与郡において示された見かけ上の臨床症状の改善(Symptomatic relief)が、市販オメプラゾール以外の薬剤を用いる合法的かつ理論的な根拠(Legitimate rationale)になりうるか否かに関しては、この論文の結果のみから結論付けるのは適当ではない、という考察もなされています。
この研究では、市販オメプラゾールの投与量は、低濃度および高濃度のいずれにおいても、同程度の胃潰瘍の予防効果を示しました(両濃度による胃潰瘍発症のオッズ比は共に0.18)。このため、オメプラゾール投与量を低濃度に抑えることで、より経済的な胃潰瘍の予防療法が期待できるかもしれません。しかし、この研究のデータ解析においては、投与期間の長さは考慮されていないため、この論文のデータのみに基づいて、低濃度オメプラゾールが、高濃度の場合と同程度の胃潰瘍の予防効果を発揮するかを予測するのは難しい、という警鐘が鳴らされています。
この研究では、三歳~四歳齢の馬では、三歳以下および四歳以上の馬に比べて、中程度~重度の胃潰瘍を発症している可能性が、五割増し以上にまで増加する傾向が認められました(オッズ比:1.55)。これは、多くの競走馬では、三歳~四歳齢の時期において、使役されるレース数が増加したり、それに伴って長距離輸送などのストレスの要因も増加したためと推測され、重篤な胃潰瘍の発症を防ぐため、三歳~四歳齢においては、特に積極的にオメプラゾールの予防的投与を行う管理指針が有効であると考えられました。
この論文において特筆すべきデータとしては、798頭の競走馬のうち、正常な内視鏡所見が認められたのは二割以下(18%)の馬に過ぎず、つまり、競走馬における胃潰瘍の有病率(Prevalence)は82%にのぼっており、このうち、中程度~重度の胃潰瘍を呈した馬の割合も、六割近く(58%)に達していました。これは、平地レースという使役&運動様式そのものが、馬に対するストレスが極めて高くなりがちで、胃潰瘍を起こしやすい環境であることを再確認させるデータであると言えるかもしれません。
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この症例論文では、抗潰瘍薬(Antiulcer medications)による馬の胃潰瘍(Gastric ulceration)の予防効果を評価するため、スクラルフェイト、H2ブロッカー、配合オメプラゾール(Compounded omeprazole)、市販オメプラゾール(Proprietary omeprazole)の投与が行われている798頭の競走馬における、胃内視鏡検査(Gastroscopy)が実施されました。
結果としては、市販オメプラゾールの投与が行われている馬では、非投与郡の馬に比べて、中程度~重度の胃潰瘍(Moderate or severe gastric ulceration)を発症している可能性が、五分の一以下まで減少することが示されました(オッズ比:0.18)。一方、他の抗潰瘍薬(スクラルフェイト、H2ブロッカー、配合オメプラゾール)の投与が行われている馬では、中程度~重度の胃潰瘍を発症している可能性は、有意には変化しなかったことが示されました。このため、内視鏡所見に基づく効能を考慮した場合には、上述の抗潰瘍薬の中で馬の胃潰瘍予防に有効であるのは、市販オメプラゾールだけであることが示唆されました。しかし、他の抗潰瘍薬の投与郡において示された見かけ上の臨床症状の改善(Symptomatic relief)が、市販オメプラゾール以外の薬剤を用いる合法的かつ理論的な根拠(Legitimate rationale)になりうるか否かに関しては、この論文の結果のみから結論付けるのは適当ではない、という考察もなされています。
この研究では、市販オメプラゾールの投与量は、低濃度および高濃度のいずれにおいても、同程度の胃潰瘍の予防効果を示しました(両濃度による胃潰瘍発症のオッズ比は共に0.18)。このため、オメプラゾール投与量を低濃度に抑えることで、より経済的な胃潰瘍の予防療法が期待できるかもしれません。しかし、この研究のデータ解析においては、投与期間の長さは考慮されていないため、この論文のデータのみに基づいて、低濃度オメプラゾールが、高濃度の場合と同程度の胃潰瘍の予防効果を発揮するかを予測するのは難しい、という警鐘が鳴らされています。
この研究では、三歳~四歳齢の馬では、三歳以下および四歳以上の馬に比べて、中程度~重度の胃潰瘍を発症している可能性が、五割増し以上にまで増加する傾向が認められました(オッズ比:1.55)。これは、多くの競走馬では、三歳~四歳齢の時期において、使役されるレース数が増加したり、それに伴って長距離輸送などのストレスの要因も増加したためと推測され、重篤な胃潰瘍の発症を防ぐため、三歳~四歳齢においては、特に積極的にオメプラゾールの予防的投与を行う管理指針が有効であると考えられました。
この論文において特筆すべきデータとしては、798頭の競走馬のうち、正常な内視鏡所見が認められたのは二割以下(18%)の馬に過ぎず、つまり、競走馬における胃潰瘍の有病率(Prevalence)は82%にのぼっており、このうち、中程度~重度の胃潰瘍を呈した馬の割合も、六割近く(58%)に達していました。これは、平地レースという使役&運動様式そのものが、馬に対するストレスが極めて高くなりがちで、胃潰瘍を起こしやすい環境であることを再確認させるデータであると言えるかもしれません。
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