馬の文献:胃潰瘍(Lester et al. 2005)
文献 - 2015年09月17日 (木)
「サラブレッド競走馬の扁平上皮部胃潰瘍に対するオメプラゾールおよびラニチジンの治療効果」
Lester GD, Smith RL, Robertson ID. Effects of treatment with omeprazole or ranitidine on gastric squamous ulceration in racing Thoroughbreds. J Am Vet Med Assoc. 2005; 227(10): 1636-1639.
この研究論文では、サラブレッド競走馬におけるオメプラゾールおよびラニチジンによる扁平上皮部胃潰瘍(Gastric squamous ulceration)の治療効果を評価するため、胃潰瘍の発症が確認された60頭の競走馬に対して、四週間にわたるオメプラゾールの単独投与、もしくは、四週間のラニチジン投与後に四週間にわたるオメプラゾールの投与が行われ、この治療期間の前後における胃内視鏡検査(Gastroscopy)による胃潰瘍スコアの比較が行われました。
結果としては、オメプラゾールおよびラニチジンの投与後には、いずれの薬剤においても投与前よりも有意に低い胃潰瘍スコアが認められましたが、両薬剤の効能を比較した場合には、オメプラゾール投与郡における胃潰瘍スコアのほうが、ラニチジン投与郡における胃潰瘍スコアよりも有意に低いことが報告されています。このため、サラブレッド競走馬の胃潰瘍の治療に際しては、ラニチジンよりもオメプラゾールのほうが治療効果が高いことが示唆されました。
一般的に、胃粘膜ホルモンであるガストリンやアセチルコリンは、腸クロム親和性細胞(Enterochromaffin-like)からのヒスタミン分泌を介して、壁細胞(Parietal cells)からの胃酸分泌を促進させることから、ヒスタミン2型受容体拮抗薬(Histamin-2-receptor antagonist)であるラニチジン投与では、このヒスタミン介在性の壁細胞刺激作用が遮断されて、胃分泌の抑制につながります。しかし、ガストリンやアセチルコリンには、ヒスタミンを介在せず、コレシストキニンBやムスカリン受容体などによる直接的分泌促進作用(Direct secretagogue effect)を介して胃分泌を促進させる機序も存在し、この経路はラニチジンでは遮断することができません。一方、プロトンポンプ遮断薬(Proton pump blocker)であるオメプラゾールの投与では、壁細胞の輸送体(H-K-ATPase)を直接的に遮断するため、分泌刺激を伝える介在物質の種類に関係なく、より効果的に胃分泌抑制を達成できると考えられており、この作用メカニズムの違いが、ラニチジンに比べてオメプラゾールのほうが、有意に高い胃潰瘍の治療効果を示した理由であると考察されています。
この研究では、四週間のラニチジン投与後に四週間のオメプラゾール投与が行われた馬では、四週間の無投与期間が置かれた後に四週間のオメプラゾール投与が行われた馬と比較して、最終的な胃潰瘍スコアには有意差は認められませんでした。このため、胃潰瘍の罹患馬に対しては、オメプラゾールの単独投与によって十分な効能が認められ、ラニチジンとオメプラゾールの連続投与によって生じる、治療効果への相乗作用(Synergic effect)は限られていることが示唆されました。
この研究では、四週間のオメプラゾール投与後に四週間の無投与期間が置かれた場合には、オメプラゾールの投与中止後から胃潰瘍スコアの悪化が起こり、最終的には投与前のスコアと有意差がないレベルまで、胃潰瘍の病態が悪化したことが報告されています。このため、四週間のオメプラゾール投与によって病巣治癒が達成された馬においても、その段階で投与を止めるのではなく、他の文献で報告されているような、低濃度のオメプラゾールの継続的投与を実施して、胃潰瘍の再発予防に努めることが重要であると考えられました。
この研究では、投与試験が行われた60頭の馬を選抜するため、合計118頭のサラブレッド競走馬に対する胃内視鏡検査が行われ、そのうち胃潰瘍の発症が確認された馬は72%でした。この数値自体は、他の文献と比較した場合、競走馬における胃潰瘍の有病率としてはそれほど高くなかったものの、胃潰瘍の罹患馬の割合は厩舎によって22~92%までバラツキが大きく、これは、厩舎間の管理法の違い(運動、給餌、輸送、etc)によって、胃潰瘍の発症度合いに格差が生じたことを示唆するデータであると考察されています。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:胃潰瘍


Lester GD, Smith RL, Robertson ID. Effects of treatment with omeprazole or ranitidine on gastric squamous ulceration in racing Thoroughbreds. J Am Vet Med Assoc. 2005; 227(10): 1636-1639.
この研究論文では、サラブレッド競走馬におけるオメプラゾールおよびラニチジンによる扁平上皮部胃潰瘍(Gastric squamous ulceration)の治療効果を評価するため、胃潰瘍の発症が確認された60頭の競走馬に対して、四週間にわたるオメプラゾールの単独投与、もしくは、四週間のラニチジン投与後に四週間にわたるオメプラゾールの投与が行われ、この治療期間の前後における胃内視鏡検査(Gastroscopy)による胃潰瘍スコアの比較が行われました。
結果としては、オメプラゾールおよびラニチジンの投与後には、いずれの薬剤においても投与前よりも有意に低い胃潰瘍スコアが認められましたが、両薬剤の効能を比較した場合には、オメプラゾール投与郡における胃潰瘍スコアのほうが、ラニチジン投与郡における胃潰瘍スコアよりも有意に低いことが報告されています。このため、サラブレッド競走馬の胃潰瘍の治療に際しては、ラニチジンよりもオメプラゾールのほうが治療効果が高いことが示唆されました。
一般的に、胃粘膜ホルモンであるガストリンやアセチルコリンは、腸クロム親和性細胞(Enterochromaffin-like)からのヒスタミン分泌を介して、壁細胞(Parietal cells)からの胃酸分泌を促進させることから、ヒスタミン2型受容体拮抗薬(Histamin-2-receptor antagonist)であるラニチジン投与では、このヒスタミン介在性の壁細胞刺激作用が遮断されて、胃分泌の抑制につながります。しかし、ガストリンやアセチルコリンには、ヒスタミンを介在せず、コレシストキニンBやムスカリン受容体などによる直接的分泌促進作用(Direct secretagogue effect)を介して胃分泌を促進させる機序も存在し、この経路はラニチジンでは遮断することができません。一方、プロトンポンプ遮断薬(Proton pump blocker)であるオメプラゾールの投与では、壁細胞の輸送体(H-K-ATPase)を直接的に遮断するため、分泌刺激を伝える介在物質の種類に関係なく、より効果的に胃分泌抑制を達成できると考えられており、この作用メカニズムの違いが、ラニチジンに比べてオメプラゾールのほうが、有意に高い胃潰瘍の治療効果を示した理由であると考察されています。
この研究では、四週間のラニチジン投与後に四週間のオメプラゾール投与が行われた馬では、四週間の無投与期間が置かれた後に四週間のオメプラゾール投与が行われた馬と比較して、最終的な胃潰瘍スコアには有意差は認められませんでした。このため、胃潰瘍の罹患馬に対しては、オメプラゾールの単独投与によって十分な効能が認められ、ラニチジンとオメプラゾールの連続投与によって生じる、治療効果への相乗作用(Synergic effect)は限られていることが示唆されました。
この研究では、四週間のオメプラゾール投与後に四週間の無投与期間が置かれた場合には、オメプラゾールの投与中止後から胃潰瘍スコアの悪化が起こり、最終的には投与前のスコアと有意差がないレベルまで、胃潰瘍の病態が悪化したことが報告されています。このため、四週間のオメプラゾール投与によって病巣治癒が達成された馬においても、その段階で投与を止めるのではなく、他の文献で報告されているような、低濃度のオメプラゾールの継続的投与を実施して、胃潰瘍の再発予防に努めることが重要であると考えられました。
この研究では、投与試験が行われた60頭の馬を選抜するため、合計118頭のサラブレッド競走馬に対する胃内視鏡検査が行われ、そのうち胃潰瘍の発症が確認された馬は72%でした。この数値自体は、他の文献と比較した場合、競走馬における胃潰瘍の有病率としてはそれほど高くなかったものの、胃潰瘍の罹患馬の割合は厩舎によって22~92%までバラツキが大きく、これは、厩舎間の管理法の違い(運動、給餌、輸送、etc)によって、胃潰瘍の発症度合いに格差が生じたことを示唆するデータであると考察されています。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:胃潰瘍