馬の文献:胃潰瘍(Videla et al. 2011)
文献 - 2015年09月19日 (土)
「エソメプラゾールの経静脈投与が成馬の胃内pHに及ぼす影響」
Videla R, Sommardahl CS, Elliott SB, Vasili A, Andrews FM. Effects of intravenously administered esomeprazole sodium on gastric juice pH in adult female horses. J Vet Intern Med. 2011; 25(3): 558-562.
この研究論文では、馬の胃潰瘍(Gastric ulceration)に対する有用な治療法を検討するため、八頭のメス成馬(Adult female horses)にエソメプラゾールの経静脈投与(Intravenous administration)、他の四頭には生食の経静脈投与をして(いずれも一日一回、二週間)、胃内視鏡検査(Gastroscopy)を介しての胃内pHの測定(投与前と投与一時間後)、および胃潰瘍病態の点数化が行われました。
結果としては、エソメプラゾール投与郡の馬では、投与前と投与一時間後で有意な胃内pHの上昇が見られ(投与前:4.25→投与一時間後:6.43)、投与開始の五日目以降では、生食投与郡よりも有意に高い胃内pHの測定値を示していました。また、エソメプラゾール投与郡の馬では、投与期間中に胃潰瘍スコアが改善する傾向が見られたのに対して、生食投与郡の馬では、胃潰瘍スコアは変化していませんでした。このため、胃潰瘍を起こした馬に対しては、一日一回のエソメプラゾールの経静脈投与によって、良好な胃潰瘍の治療効果が期待できることが示唆されました。
一般的に、オメプラゾールの鏡像異性体(Enantiomer)であるエソメプラゾールは、オメプラゾールよりも初回通過肝臓代謝(First-pass hepatic metabolism)が低いため、血漿からの清掃率(Plasma clearance rate)が少なく、血漿濃度の曲線下面積(Are under the curve of plasma concentration)が大きいことが知られています。このため、人間の胃内pHに対しては、オメプラゾールよりもエソメプラゾールのほうが、より長時間にわたってpHを高値(>4pH)に保ったり、より迅速にpH上昇効果を誘導できることが示されています(Andersson et al. Drug Deposition. 2001;40:411)。
この研究では、馬の胃潰瘍の治療に際して、嚥下障害(Dysphagia)や胃液逆流(Gastric reflux)などのために、オメプラゾールの経口投与が禁忌(Contraindication)である症例に対して、エソメプラゾールの経静脈投与が有用であることが示唆されました。このような病態の例としては、十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)、術後腸閉塞(Post-operative ileus)、難治性の食道閉塞(Esophageal obstruction)などが挙げられます。このうち、例えば十二指腸近位空腸炎の罹患馬では、胃潰瘍の発症率は68%に達し、大結腸便秘(Large colon impaction)や大結腸捻転(Large colon volvulus)における胃潰瘍発症率(順に32%と14%)よりも、顕著に高いことが報告されています(Dukti et al. EVJ. 2006;38:347)。
この研究では、エソメプラゾール投与郡の馬において、投与開始から五日目および十四日目の投与前の胃内pHが、生食投与郡の投与前胃内pHよりも有意に高かったことから、経静脈投与されたエソメプラゾールは、少なくとも23時間以上にわたって作用したことが示唆されました。他の文献では、エソメプラゾールが経口投与された場合には、投与から23時間に及ぶような長期作用は示されておらず(Prreira et al. J Eq Vet Sci. 2009;29:791)、エソメプラゾールを経静脈投与することで、経口投与よりも有意に優れた治療効果を誘導できる可能性が示唆されました。
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この研究論文では、馬の胃潰瘍(Gastric ulceration)に対する有用な治療法を検討するため、八頭のメス成馬(Adult female horses)にエソメプラゾールの経静脈投与(Intravenous administration)、他の四頭には生食の経静脈投与をして(いずれも一日一回、二週間)、胃内視鏡検査(Gastroscopy)を介しての胃内pHの測定(投与前と投与一時間後)、および胃潰瘍病態の点数化が行われました。
結果としては、エソメプラゾール投与郡の馬では、投与前と投与一時間後で有意な胃内pHの上昇が見られ(投与前:4.25→投与一時間後:6.43)、投与開始の五日目以降では、生食投与郡よりも有意に高い胃内pHの測定値を示していました。また、エソメプラゾール投与郡の馬では、投与期間中に胃潰瘍スコアが改善する傾向が見られたのに対して、生食投与郡の馬では、胃潰瘍スコアは変化していませんでした。このため、胃潰瘍を起こした馬に対しては、一日一回のエソメプラゾールの経静脈投与によって、良好な胃潰瘍の治療効果が期待できることが示唆されました。
一般的に、オメプラゾールの鏡像異性体(Enantiomer)であるエソメプラゾールは、オメプラゾールよりも初回通過肝臓代謝(First-pass hepatic metabolism)が低いため、血漿からの清掃率(Plasma clearance rate)が少なく、血漿濃度の曲線下面積(Are under the curve of plasma concentration)が大きいことが知られています。このため、人間の胃内pHに対しては、オメプラゾールよりもエソメプラゾールのほうが、より長時間にわたってpHを高値(>4pH)に保ったり、より迅速にpH上昇効果を誘導できることが示されています(Andersson et al. Drug Deposition. 2001;40:411)。
この研究では、馬の胃潰瘍の治療に際して、嚥下障害(Dysphagia)や胃液逆流(Gastric reflux)などのために、オメプラゾールの経口投与が禁忌(Contraindication)である症例に対して、エソメプラゾールの経静脈投与が有用であることが示唆されました。このような病態の例としては、十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)、術後腸閉塞(Post-operative ileus)、難治性の食道閉塞(Esophageal obstruction)などが挙げられます。このうち、例えば十二指腸近位空腸炎の罹患馬では、胃潰瘍の発症率は68%に達し、大結腸便秘(Large colon impaction)や大結腸捻転(Large colon volvulus)における胃潰瘍発症率(順に32%と14%)よりも、顕著に高いことが報告されています(Dukti et al. EVJ. 2006;38:347)。
この研究では、エソメプラゾール投与郡の馬において、投与開始から五日目および十四日目の投与前の胃内pHが、生食投与郡の投与前胃内pHよりも有意に高かったことから、経静脈投与されたエソメプラゾールは、少なくとも23時間以上にわたって作用したことが示唆されました。他の文献では、エソメプラゾールが経口投与された場合には、投与から23時間に及ぶような長期作用は示されておらず(Prreira et al. J Eq Vet Sci. 2009;29:791)、エソメプラゾールを経静脈投与することで、経口投与よりも有意に優れた治療効果を誘導できる可能性が示唆されました。
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