馬の文献:胃潰瘍(Sykes et al. 2014)
文献 - 2015年09月19日 (土)
「馬の胃潰瘍症候群の治療のためのオメプラゾールの二種類の投与濃度の比較:盲検かつ無作為の臨床試験」
Sykes BW, Sykes KM, Hallowell GD. A comparison of two doses of omeprazole in the treatment of equine gastric ulcer syndrome: a blinded, randomised, clinical trial. Equine Vet J. 2014; 46(4): 416-421.
この研究論文では、馬の胃潰瘍症候群(Gastric ulcer syndrome)に対するオメプラゾールの治療効果を検討するため、胃内視鏡検査(Gastroscopy)によってグレード2以上の胃潰瘍が確認された20頭のサラブレッド競走馬を、二種類の濃度のオメプラゾール投与郡(2.0g or 0.8g)に無作為に割り振り、28~35日後に行われた再度の胃内視鏡検査によって、胃潰瘍病巣の治癒度合いの評価が行われました。
結果としては、扁平上皮部の潰瘍(Squamous ulceration)および腺上皮部の潰瘍(Glandular ulceration)のいずれにおいても、投与濃度が高いほど、そして、投与期間が長いほど、胃潰瘍のグレードが有意に低くなっており、低濃度のオメプラゾールでも、高濃度と同様な効能が期待できるという仮説を裏付けるデータは示されませんでした。また、扁平上皮部の潰瘍のほうが、腺上皮部の潰瘍に比べて、潰瘍が改善した馬の割合が有意に高く、かつ、潰瘍の改善の度合いにも有意に優れていたことが示されました。
他の文献では、この研究における低濃度よりも更に低い濃度(1.4mg/kg-BW)のオメプラゾールによっても、規定値および刺激時の胃酸分泌(Gastric acid output)が、投与後の丸一日にわたって、九割減少したことが報告されている一方で(Jenkins et al. EVJ. 1992:24;s89)、この研究の高濃度と同じ濃度(4.0mg/kg-BW)によっても、胃酸抑制(Gastric acid suppression)は12時間未満しか見られなかった、という知見も示されています(Merritt et al. EVJ. 2003:35;691)。これらのデータは、研究馬を用いた実験であり、臨床的に胃潰瘍を持った馬におけるオメプラゾールの効能は、更なる臨床試験によって検証する必要があると結論付けられています。
この研究では、過去の文献ではあまり着目されていなかった、腺上皮部の潰瘍に対するオメプラゾールの治療効果が検証されており、扁平上皮部の潰瘍に比べて、治癒の速度が遅い傾向が認められました。このため、オメプラゾール投与による胃酸分泌の抑制が、腺上皮部の潰瘍の治癒にも関わっていると推測される一方で、適切な治療効果を発揮させるためには、投与濃度および投与期間のいずれを増やせば良いのかについては、更なら検討を要すると考察されています。他の文献では、腺上皮部の潰瘍に対する治療では、胃酸分泌の抑制剤のほかに、抗生物質(Antimicrobials)または胃壁保護剤(Gastroprotectants)の併用を要する、という知見も示されています(Hepburn. In Pract. 2011:33;116)。
この研究の限界点(Limitations)としては、各投与郡の検体数(Sample size)が比較的に少なかった事と、投与濃度が体重に基づく細かい計算ではなく、2.0gまたは0.8gという二つの値に限定されていた事が挙げられています。また、胃内視鏡検査のための絶食時間(Duration of fasting)は約12時間で、通常の胃内視鏡検査よりも短い傾向にありましたが、全ての症例において、腺部を含めた胃内の全領域の検査が可能であったことが報告されています。
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馬の病気:胃潰瘍


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この研究論文では、馬の胃潰瘍症候群(Gastric ulcer syndrome)に対するオメプラゾールの治療効果を検討するため、胃内視鏡検査(Gastroscopy)によってグレード2以上の胃潰瘍が確認された20頭のサラブレッド競走馬を、二種類の濃度のオメプラゾール投与郡(2.0g or 0.8g)に無作為に割り振り、28~35日後に行われた再度の胃内視鏡検査によって、胃潰瘍病巣の治癒度合いの評価が行われました。
結果としては、扁平上皮部の潰瘍(Squamous ulceration)および腺上皮部の潰瘍(Glandular ulceration)のいずれにおいても、投与濃度が高いほど、そして、投与期間が長いほど、胃潰瘍のグレードが有意に低くなっており、低濃度のオメプラゾールでも、高濃度と同様な効能が期待できるという仮説を裏付けるデータは示されませんでした。また、扁平上皮部の潰瘍のほうが、腺上皮部の潰瘍に比べて、潰瘍が改善した馬の割合が有意に高く、かつ、潰瘍の改善の度合いにも有意に優れていたことが示されました。
他の文献では、この研究における低濃度よりも更に低い濃度(1.4mg/kg-BW)のオメプラゾールによっても、規定値および刺激時の胃酸分泌(Gastric acid output)が、投与後の丸一日にわたって、九割減少したことが報告されている一方で(Jenkins et al. EVJ. 1992:24;s89)、この研究の高濃度と同じ濃度(4.0mg/kg-BW)によっても、胃酸抑制(Gastric acid suppression)は12時間未満しか見られなかった、という知見も示されています(Merritt et al. EVJ. 2003:35;691)。これらのデータは、研究馬を用いた実験であり、臨床的に胃潰瘍を持った馬におけるオメプラゾールの効能は、更なる臨床試験によって検証する必要があると結論付けられています。
この研究では、過去の文献ではあまり着目されていなかった、腺上皮部の潰瘍に対するオメプラゾールの治療効果が検証されており、扁平上皮部の潰瘍に比べて、治癒の速度が遅い傾向が認められました。このため、オメプラゾール投与による胃酸分泌の抑制が、腺上皮部の潰瘍の治癒にも関わっていると推測される一方で、適切な治療効果を発揮させるためには、投与濃度および投与期間のいずれを増やせば良いのかについては、更なら検討を要すると考察されています。他の文献では、腺上皮部の潰瘍に対する治療では、胃酸分泌の抑制剤のほかに、抗生物質(Antimicrobials)または胃壁保護剤(Gastroprotectants)の併用を要する、という知見も示されています(Hepburn. In Pract. 2011:33;116)。
この研究の限界点(Limitations)としては、各投与郡の検体数(Sample size)が比較的に少なかった事と、投与濃度が体重に基づく細かい計算ではなく、2.0gまたは0.8gという二つの値に限定されていた事が挙げられています。また、胃内視鏡検査のための絶食時間(Duration of fasting)は約12時間で、通常の胃内視鏡検査よりも短い傾向にありましたが、全ての症例において、腺部を含めた胃内の全領域の検査が可能であったことが報告されています。
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