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馬の文献:内毒素血症(Semrad et al. 1987)

「低濃度のフルニキシン・メグルミン:実験的な内毒素血症の馬における臨床症状およびエイコサノイド産生への影響」
Semrad SD, Hardee GE, Hardee MM, Moore JN. Low dose flunixin meglumine: effects on eicosanoid production and clinical signs induced by experimental endotoxaemia in horses. Equine Vet J. 1987; 19(3): 201-206.

この研究論文では、馬の内毒素血症(Endotoxemia)に対するフルニキシン・メグルミン(Flunixin meglumine)の治療効果を評価するため、三種類の濃度のフルニキシン・メグルミンの投与後に、リポ多糖類(Lipopolysaccharide)の投与によって実験的な内毒素血症状態(Experimental endotoxic condition)を作り出し、その後の臨床所見のモニタリング、およびトロンボキサン(Thromboxane B2: TxB2)、プロスタサイクリン(Prostacyclin)、乳酸(Lactate)の血漿濃度の測定が行われました。

結果としては、高濃度(1.0mg/kg)および低濃度(0.25mg/kg)のフルニキシン・メグルミンによる前処置(Pretreatment)の後に、リポ多糖類の投与が行われた馬では、対照郡(Control group)の馬に比較して、有意に低いトロンボキサン濃度、プロスタサイクリン濃度、および乳酸濃度を示しましたが、高濃度と低濃度のフルニキシン・メグルミン投与郡のあいだでは、有意差は認められませんでした。このため、内毒素血症の罹患馬に対しては、低濃度(0.25mg/kg)のフルニキシン・メグルミン投与によって、高濃度(1.0mg/kg)の場合と同レベルの抗炎症効果(Anti-inflammatory effect)が期待でき、なおかつ、治療費や副作用の危険を減少できることが示唆されました。

この研究では、低濃度(0.25mg/kg)および最も低濃度(0.1mg/kg)のフルニキシン・メグルミンによる前処置の後に、リポ多糖類の投与が行われた馬では、頻脈(Tachycardia)、頻呼吸(Tachypnea)、高体温(Hyperthermia)、粘膜うっ血(Congested mucous membrane)、毛細血管再充満時間の遅延(Prolonged capillary refilling time)などの内毒素血症の症状が認められましたが、高濃度(1.0mg/kg)のフルニキシン・メグルミンによる前処置が行われた馬では、これらの臨床症状が確認されませんでした。これは、高濃度のフルニキシン・メグルミン投与によって、患馬の経過観察のために重要な内毒素血症の症状が、見た目上は覆い隠されてしまったという、フルニキシン・メグルミン治療によるマイナス面を示したデータであると言えます。

上述の二つの研究結果を考慮すると、高濃度と低濃度のフルニキシン・メグルミン投与郡における抗炎症作用には有意差が無かったにも関わらず、高濃度の投与郡では疝痛症状の発現が遮蔽されてしまい、患馬の経過観察が困難になると考えられます。また、高濃度のバナミン投与によって、副作用の危険も高くとなると推測されることから、内毒素血症の罹患馬の治療に際しては、低濃度のフルニキシン・メグルミン投与は実施するべきであると結論付けられています。また、この論文の筆者が発表した他の文献においても、低濃度のフルニキシン・メグルミン療法の治療効果を裏付ける実験結果が報告されています(Semrad et al. Prostaglandins Leukot Med. 1987; 27: 169)。

この論文で提唱されているような、低濃度のフルニキシン・メグルミン療法は、かなりの臨床獣医師からも支持されており、「内毒素血症の馬には低濃度のバナミンを使う」という治療指針を、定説的に推奨する教科書や文献も見られます。しかし、他の文献報告を精査してみると、高濃度(1.0mg/kg)のフルニキシン・メグルミン投与では、低酸素症(Hypoxaemia)や酸性血症(Acidosis)を予防したり(Moore et al. EVJ. 1981; 13: 95)(Fessler et al. AJVR. 1982; 43: 140)、低血圧(Hypotension)やショックの発現を遅らせるという治療効果も報告されています(Bottoms et al. AJVR. 1981; 42: 1514)(Ewert et al. AJVR. 1985; 46: 24)。このため、疝痛馬の病態の重篤度によっては、敢えて低濃度のフルニキシン・メグルミン投与にこだわらず、積極的に高濃度の抗炎症剤投与を実施するべき症例も多いのかもしれません。

一方、この論文で警鐘が鳴らされているような、「高濃度のフルニキシン・メグルミン療法によって、疝痛症状の発現が覆い隠されてしまう」という問題に関しても、見た目の疼痛&内毒素症状の変化や、心拍数や呼吸数の増加のみを頼りにせず、直腸検査(Rectal examination)、腹水検査(Abdominocentesis)、腹腔超音波検査(Abdominal ultrasonography)などを併用して、包括的に疝痛診断を試みることで、信頼的な経過観察を行うことは十分可能であると考えられます。また、高濃度のフルニキシン・メグルミン投与による副作用に関しても、重度の脱水症(Severe dehydration)や循環障害(Circulatory compromise)を呈した症例に対して、十分な補液療法(Fluid therapy)を併用しながら高濃度のバナミン投与を行うことで、副作用の発現の危険性を、最小限に抑えることが出来ると推測されます。つまり、内毒素血症の重篤度や経過の長さによっては、このようなフルニキシン・メグルミンのマイナス面を補う他の治療指針を併行して実施することで、高濃度のバナミン投与を躊躇せずに選択するべき症例もあると考えられます。

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