馬の文献:内毒素血症(Durando et al. 1994)
文献 - 2015年09月21日 (月)
「内毒素が経静脈投与された馬に対するポリミキシンBおよびサルモネラ抗血清の治療効果」
Durando MM, MacKay RJ, Linda S, Skelley LA. Effects of polymyxin B and Salmonella typhimurium antiserum on horses given endotoxin intravenously. Am J Vet Res. 1994; 55(7): 921-927.
この研究論文では、馬の内毒素血症(Endotoxemia)に対するポリミキシンB(Polymyxin B)およびサルモネラ抗血清(Salmonella typhimurium antiserum)の治療効果を評価するため、3~5ヶ月齢の子馬において、ポリミキシンBまたはサルモネラ抗血清の投与後に、リポ多糖類(Lipopolysaccharide: LPS)の投与によって実験的な内毒素血症状態(Experimental endotoxic condition)を作り出し、その後の臨床所見および血液所見のモニタリング、腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor: TNF)およびインターロイキン6(Interleukin-6: IL-6)の血中活性度の測定が行われました。
結果としては、LPS抗血清による前処置(Pretreatment)の後に、リポ多糖類の投与が行われた子馬では、対照郡(Control group)の子馬に比較して、有意に高いTNFおよびIL-6活性と、有意に高い呼吸数(Respiratory rate)が認められました。このため、内毒素血症に罹患した子馬に対しては、LPS抗血清の投与によって、抗炎症効果(Anti-inflammatory effect)が示されないばかりか、抗血清投与に起因して内毒素血症の症状が逆に悪化する、という矛盾した実験結果(Conflicting results)が示されました。
一般的に、内毒素血症の馬に対しては、LPS抗血清の投与を介して、リポ多糖類がA脂質抗体(Anti-lipid-A antibodies)に捕捉され、循環内毒素の中和(Neutralization of circulating endotoxin)が達成できると考えられています。事実、LPS抗血清の試験的投与が行われた幾つかの文献を見ると、ポニーの実験的な内毒素血症において、腹痛症状(Abdominal pain)や食欲不振(Anorexia)が改善されたという報告や(Garner et al. Equine Pract. 1988; 10: 10)、成馬の内毒素血症の臨床症例において、治癒期間の短縮(Shortened recovery period)や斃死率の減少(Decreased mortality rate)が見られた、という報告があります(Spier et al. Circ Shock. 1989; 28: 235)。
それにも関わらず、この研究論文において、LPS抗血清の投与が子馬の内毒素血症を悪化させた理由としては、投与されたLPS抗血清に急性期蛋白(Acute-phase protein)やリポ多糖類結合蛋白(LPS-binding protein)が含まれていて、これらの蛋白が引き金となり、より重篤な内毒素誘導性炎症(Endotoxin-induced inflammation)を引き起こす要因になった、という可能性が示唆されています。このため、子馬における内毒素血症の症例に対しては、LPS抗血清の投与によって症状悪化につながる場合がありうることを考慮して、慎重な治療指針の決定、および患馬のモニタリングに努めることが重要である、という警鐘が鳴らされています。
この研究では、ポリミキシンBによる前処置の後に、リポ多糖類の投与が行われた子馬では、対照郡の子馬に比較して、有意に低いTNFおよびIL-6活性と、有意に低い呼吸数および体温が認められました。このため、内毒素血症に罹患した子馬に対しては、ポリミキシンB投与によって、良好な抗炎症効果が期待できることが示唆されました。
一般的に、内毒素血症の馬に対しては、ポリミキシンBの投与を介してのリポ多糖類の中和療法によって、内毒素誘導性炎症の発現を予防できると考えられています。しかし、もし内毒素が、既に受容体に結合してしまった場合には、その後に誘発される一連の炎症反応を中和することは出来ないことから、内毒素血症を生じる危険性があると判断された馬に対しては、できるだけ早い段階で、ポリミキシンBの投与を行うことが重要であると提唱されています。
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この研究論文では、馬の内毒素血症(Endotoxemia)に対するポリミキシンB(Polymyxin B)およびサルモネラ抗血清(Salmonella typhimurium antiserum)の治療効果を評価するため、3~5ヶ月齢の子馬において、ポリミキシンBまたはサルモネラ抗血清の投与後に、リポ多糖類(Lipopolysaccharide: LPS)の投与によって実験的な内毒素血症状態(Experimental endotoxic condition)を作り出し、その後の臨床所見および血液所見のモニタリング、腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor: TNF)およびインターロイキン6(Interleukin-6: IL-6)の血中活性度の測定が行われました。
結果としては、LPS抗血清による前処置(Pretreatment)の後に、リポ多糖類の投与が行われた子馬では、対照郡(Control group)の子馬に比較して、有意に高いTNFおよびIL-6活性と、有意に高い呼吸数(Respiratory rate)が認められました。このため、内毒素血症に罹患した子馬に対しては、LPS抗血清の投与によって、抗炎症効果(Anti-inflammatory effect)が示されないばかりか、抗血清投与に起因して内毒素血症の症状が逆に悪化する、という矛盾した実験結果(Conflicting results)が示されました。
一般的に、内毒素血症の馬に対しては、LPS抗血清の投与を介して、リポ多糖類がA脂質抗体(Anti-lipid-A antibodies)に捕捉され、循環内毒素の中和(Neutralization of circulating endotoxin)が達成できると考えられています。事実、LPS抗血清の試験的投与が行われた幾つかの文献を見ると、ポニーの実験的な内毒素血症において、腹痛症状(Abdominal pain)や食欲不振(Anorexia)が改善されたという報告や(Garner et al. Equine Pract. 1988; 10: 10)、成馬の内毒素血症の臨床症例において、治癒期間の短縮(Shortened recovery period)や斃死率の減少(Decreased mortality rate)が見られた、という報告があります(Spier et al. Circ Shock. 1989; 28: 235)。
それにも関わらず、この研究論文において、LPS抗血清の投与が子馬の内毒素血症を悪化させた理由としては、投与されたLPS抗血清に急性期蛋白(Acute-phase protein)やリポ多糖類結合蛋白(LPS-binding protein)が含まれていて、これらの蛋白が引き金となり、より重篤な内毒素誘導性炎症(Endotoxin-induced inflammation)を引き起こす要因になった、という可能性が示唆されています。このため、子馬における内毒素血症の症例に対しては、LPS抗血清の投与によって症状悪化につながる場合がありうることを考慮して、慎重な治療指針の決定、および患馬のモニタリングに努めることが重要である、という警鐘が鳴らされています。
この研究では、ポリミキシンBによる前処置の後に、リポ多糖類の投与が行われた子馬では、対照郡の子馬に比較して、有意に低いTNFおよびIL-6活性と、有意に低い呼吸数および体温が認められました。このため、内毒素血症に罹患した子馬に対しては、ポリミキシンB投与によって、良好な抗炎症効果が期待できることが示唆されました。
一般的に、内毒素血症の馬に対しては、ポリミキシンBの投与を介してのリポ多糖類の中和療法によって、内毒素誘導性炎症の発現を予防できると考えられています。しかし、もし内毒素が、既に受容体に結合してしまった場合には、その後に誘発される一連の炎症反応を中和することは出来ないことから、内毒素血症を生じる危険性があると判断された馬に対しては、できるだけ早い段階で、ポリミキシンBの投与を行うことが重要であると提唱されています。
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