馬の文献:内毒素血症(Bentley et al. 2002)
文献 - 2015年09月22日 (火)
「子馬の敗血症モデルにおける抗生物質誘導性の内毒素とサイトカイン活性」
Bentley AP, Barton MH, Lee MD, Norton NA, Moore JN. Antimicrobial-induced endotoxin and cytokine activity in an in vitro model of septicemia in foals. Am J Vet Res. 2002; 63(5): 660-668.
この研究論文では、子馬の敗血症(Septicemia)における、抗生物質誘導性の内毒素(Antimicrobial-induced endotoxin)とそれに起因するサイトカイン活性(Cytokine activity)を評価するため、10頭の正常子馬の血液検体を大腸菌(Escherichia coli)と一緒に培養し、九種類の抗生物質の添加のよって培養液中に生じる、内毒素の濃度と腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor alpha: TNF-alpha)の活性の測定が行われました。
結果としては、アミカシンの単独使用もしくはアンピシリンとの併用が行われた場合には、アンピシリンおよびセフチオファー単独使用が行われた場合に比較して、有意に高い内毒素濃度が認められ、また、内毒素濃度とTNF-alpha活性とのあいだには、有意な相関が示されました。このため、アミノグリコサイド系抗生物質(Aminoglycoside antimicrobials)の投与では、ベータラクタム系抗生物質(Beta-lactam antimicrobials)の投与に比べて、内毒素血症(Endotoxemia)を続発しにくいことが示唆されました。
一般的に、ベータラクタム系抗生物質は、細菌の細胞壁(Bacterial cell wall)に対して作用することから、微生物の酵素生成(Microbial protein synthesis)に作用するアミノグリコサイド系抗生物質に比べて、より高濃度の内毒素を遊離させて、それに起因して、より高レベルの炎症性反応を起こすと考えられており、この研究では、体外実験(In vitro experiments)によってその仮説を裏付けるデータが示されました。
このため、子馬の敗血症(Septicemia)に対して、アンピシリンやセフチオファーなどの、ベータラクタム系抗生物質の投与が行われる場合には、LPS抗血清(LPS antiserum)やポリミキシンB抗生物質(Polymyxin-B antibiotics)の投与を介しての循環内毒素の中和療法(Neutralization of circulating endotoxin)や、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与を介しての内毒素誘導性炎症の抑制(Inhibition of endotoxin-induced inflammation)、およびハイドロキシルラディカル捕捉剤(Hydroxyl radical scavenger)の投与を介しての活性酸素種の除去(Removal of reactive oxygen species)、などを併行して実施することで、致死的な内毒素血症の予防に努めることが重要であるという考察がなされています。
この研究では、それぞれの抗生物質の添加量を、生体内実験(In vivo experiments)では算出しにくい最小発育阻止濃度(Minimum inhibitory concentration)に基づいて標準化(Standardization)する実験デザインが用いられており、このため、内毒素の誘発量およびサイトカイン活性は、それぞれの抗生物質による殺菌の度合い(Degree of bacterial killing)ではなく、抗生物質の種類(アミノグリコサイド系 v.s. ベータラクタム系)に由来することを科学的に裏付ける結果が示されました。また、アミノグリコサイド系抗生物質は、内毒素への結合作用(Binding effect to LPS)や、内毒素生成の抑制作用(Inhibitory effect of LPS synthesis)を有すると仮説されており、これによって、この研究で示されたような、内毒素誘導性炎症の減退が達成された可能性もあると推測されています。
一般的に、体外実験では、使用された抗生物質が血液検体中の単核細胞(Mononuclear cells)に対しても毒性を示した場合には、これらの細胞の代謝減退(Decreased metabolism)に起因して、サイトカインの活性が低くく傾向があるため、その実験結果の解釈には注意を要することが知られています。しかし、この研究では、二種類のMIC濃度を用いた場合を比較しても、内毒素濃度とTNF-alpha活性とのあいだの相関は同程度であったことから、単核細胞に対する抗生物質の毒性は、実験結果に有意には影響しなかったと考えられ、アミノグリコサイド系抗生物質のほうが、サイトカイン活性を起こしにくいという結果は信頼性が高い、という考察がなされています。
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この研究論文では、子馬の敗血症(Septicemia)における、抗生物質誘導性の内毒素(Antimicrobial-induced endotoxin)とそれに起因するサイトカイン活性(Cytokine activity)を評価するため、10頭の正常子馬の血液検体を大腸菌(Escherichia coli)と一緒に培養し、九種類の抗生物質の添加のよって培養液中に生じる、内毒素の濃度と腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor alpha: TNF-alpha)の活性の測定が行われました。
結果としては、アミカシンの単独使用もしくはアンピシリンとの併用が行われた場合には、アンピシリンおよびセフチオファー単独使用が行われた場合に比較して、有意に高い内毒素濃度が認められ、また、内毒素濃度とTNF-alpha活性とのあいだには、有意な相関が示されました。このため、アミノグリコサイド系抗生物質(Aminoglycoside antimicrobials)の投与では、ベータラクタム系抗生物質(Beta-lactam antimicrobials)の投与に比べて、内毒素血症(Endotoxemia)を続発しにくいことが示唆されました。
一般的に、ベータラクタム系抗生物質は、細菌の細胞壁(Bacterial cell wall)に対して作用することから、微生物の酵素生成(Microbial protein synthesis)に作用するアミノグリコサイド系抗生物質に比べて、より高濃度の内毒素を遊離させて、それに起因して、より高レベルの炎症性反応を起こすと考えられており、この研究では、体外実験(In vitro experiments)によってその仮説を裏付けるデータが示されました。
このため、子馬の敗血症(Septicemia)に対して、アンピシリンやセフチオファーなどの、ベータラクタム系抗生物質の投与が行われる場合には、LPS抗血清(LPS antiserum)やポリミキシンB抗生物質(Polymyxin-B antibiotics)の投与を介しての循環内毒素の中和療法(Neutralization of circulating endotoxin)や、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与を介しての内毒素誘導性炎症の抑制(Inhibition of endotoxin-induced inflammation)、およびハイドロキシルラディカル捕捉剤(Hydroxyl radical scavenger)の投与を介しての活性酸素種の除去(Removal of reactive oxygen species)、などを併行して実施することで、致死的な内毒素血症の予防に努めることが重要であるという考察がなされています。
この研究では、それぞれの抗生物質の添加量を、生体内実験(In vivo experiments)では算出しにくい最小発育阻止濃度(Minimum inhibitory concentration)に基づいて標準化(Standardization)する実験デザインが用いられており、このため、内毒素の誘発量およびサイトカイン活性は、それぞれの抗生物質による殺菌の度合い(Degree of bacterial killing)ではなく、抗生物質の種類(アミノグリコサイド系 v.s. ベータラクタム系)に由来することを科学的に裏付ける結果が示されました。また、アミノグリコサイド系抗生物質は、内毒素への結合作用(Binding effect to LPS)や、内毒素生成の抑制作用(Inhibitory effect of LPS synthesis)を有すると仮説されており、これによって、この研究で示されたような、内毒素誘導性炎症の減退が達成された可能性もあると推測されています。
一般的に、体外実験では、使用された抗生物質が血液検体中の単核細胞(Mononuclear cells)に対しても毒性を示した場合には、これらの細胞の代謝減退(Decreased metabolism)に起因して、サイトカインの活性が低くく傾向があるため、その実験結果の解釈には注意を要することが知られています。しかし、この研究では、二種類のMIC濃度を用いた場合を比較しても、内毒素濃度とTNF-alpha活性とのあいだの相関は同程度であったことから、単核細胞に対する抗生物質の毒性は、実験結果に有意には影響しなかったと考えられ、アミノグリコサイド系抗生物質のほうが、サイトカイン活性を起こしにくいという結果は信頼性が高い、という考察がなされています。
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